目次
プロセス管理の目的
プロジェクト管理を体系化したPMBOKでもプロセスについてまとめられているように、プロジェクトにおいては適切なプロセス管理が重要になります。
ここではまずプロセス管理の二つの主な目的について紹介します。
プロジェクトを「安定的に」成功させるため
一昔前のプロジェクト管理では「成果物」だけが意識されて、そのプロセスにはあまり目がいかない傾向にありました。
長きにわたりさまざまな課題を効率的に解決していくためには、それぞれのプロジェクトを「安定的に」成功させていくことが重要になります。
このような考え方から、プロジェクト管理においては「プロセス管理が重要である」というのが現代の考え方となっています。そのため、PMBOKでも5つのプロジェクトにおけるプロセスについてまとめられているのです。
成果物の安定的な品質を担保するため
もともとは製造業の生産プロセス管理に由来する考え方です。製造業においては、自動車でいうISO26262に代表されるような機能安全規格を満たすことが重要な要件です。
継続的に安定した製品を生産し、世に出し続けていくためには、生産プロセスの管理が重要であるとの考え方から、プロセス管理の能力が注目されるようになってきました。
現代では製造業に限らず、コンサルやITなどさまざまなプロジェクトベースでのビジネスにおいても、質の高い成果物を安定的にデリバリーをし続けるためには、成果物を形成するプロセスの管理が重要であると考えられています。
プロセス管理における管理領域
現代におけるプロジェクト管理はPMBOK(Project Management Body of Knowledge)にて体系的にまとめられています。PMBOKでは10のプロセス管理領域がまとめられています。
PMBOKにおける10の管理領域
PMBOKによると、プロジェクトにおいては次の10の領域を管理することで、円滑な管理が可能になるとしています。
・統合管理
プロジェクトの全体指揮
・調達管理
プロジェクトに必要な資材の調達・仕入先の選定や契約、契約後の調達状況の管理
・コスト管理
予算設定とコスト見積もり、コストの予実管理ストの見積りや予算を設定
・リスク管理
発生するトラブルの予測と、予防、対応策の管理
・スコープ管理
プロジェクト全体、およびフェーズごとのゴールやゴールを満たす成果物の定義、およびその達成状況の管理
・要員管理
プロジェクトのフェーズごとの工数の把握と主に人的リソース配分の管理
・コミュニケーション管理
プロジェクト推進のための円滑なコミュニケーションがなされているかを管理
スケジュール管理
スケジュールを工程表で計画し、計画と実績管理、必要に応じて計画の修正対応
・品質管理
成果物・生産物の品質管理。時に成果物の品質チェックテストの計画や管理
・ステークホルダー管理
プロジェクトにかかわる利害関係者の必要な情報の伝達や管理
PMBOKにおけるプロセスの管理手法
プロジェクト管理に必要な10の領域において、次の5つのプロセスに従って管理を進めていくのが良いとされています。
立ち上げ
プロジェクトのコンセプトをまとめて、プロジェクトを進めていくための許可や認可を取得します。
プロジェクトの目的や予算、成果を定義し、またステークホルダー(利害関係者)の特定などをおこなうため、次のような領域の管理が特に重要です。
・統合管理
・コスト管理
・スコープ管理
・品質管理
・ステークホルダー管理
計画
プロジェクトのコンセプトに沿って、具体的な計画策定に入ります。
どの管理領域にも「計画」は必要なのでこのフェーズでは全ての領域が重要ですが、細かいスケジュール管理、フェーズごとの要員計画の策定、コスト配分やプロジェクトを進捗させる中で想定されるリスクの洗い出しなどは計画策定に大きな影響を及ぼします。
したがって、次の領域の管理がとりわけ重要になってきます。
・統合管理
・調達管理
・コスト管理
・リスク管理
・要員管理
・スケジュール管理
実行
それぞれが計画で定義された役割を果たしながら、プロジェクトのスコープで定めたゴールの達成に向けてプロジェクトは進められていきます。
この段階では全ての領域において管理が重要になってきますが、特筆すべきはコミュニケーション管理です。これは、プロジェクトが始まりコミュニケーションを取り始めてから課題が明らかになるケースが多いためです。
またプロジェクト推進に欠かせない資源の調達や各要員の稼働状況などの管理、コストやスケジュールの予実管理なども重要なポイントです。
したがって、次の領域の管理がとりわけ重要になってきます。
・統合管理
・調達管理
・コスト管理
・要員管理
・コミュニケーション管理
・スケジュール管理
監視・管理
プロジェクトの実行と監視・管理はある程度はオーバーラップして進められますが、プロジェクトが大きくなると、定点を設けてプロジェクトの状況を確認して、適切な修正が加えられるケースが少なくありません。
全ての領域にチェックが入りますが、とりわけ重要なのは、成果物の品質と、スケジュール対比での進捗、プロジェクト達成をおびやかすリスクの確認となります。
したがって、次の領域の管理がとりわけ重要になってきます。
・統合管理
・リスク管理
・スケジュール管理
・品質管理
終結
終結とはプロジェクトのクロージングを意味します。ここまでのプロセス管理が正常に稼働していれば、クライアントが求める成果物ができあがっているはずです。成果物のクオリティを確認したり、必要に応じてクライアントに報告したりしたうえで、成果物をデリバリーします。
また、特にコンサルファームの場合はその後もさまざまなコンサルプロジェクトに参画することになるため、プロジェクトから得た情報や学びをまとめて評価したり、次のプロジェクトに活かしたりします。
プロセス管理における課題と解決策
リソース不足やツールの不適合、リーダーの不在などが円滑なプロセス管理の阻害要因となるケースも少なくありません。ここではプロセス管理にまつわる課題の事例と解決方法を紹介します。
リソース不足でプロセス管理が回らない
プロジェクトや組織が小さいうちは、プロセス管理も単純なため、実質的に稼働しているメンバーの誰かがプロセス管理もおこなったり、それぞれが自分の領域の管理をおこなったりして進められる案件も少なくありません。
しかし大型化してくると、プロセス管理の専門家がプロジェクトに必要になってきます。その時にその要員を確保できれば良いですが、予算や組織構造などからリソースが足りずにプロセス管理を効率化できないケースは少なくありません。
こうした課題への端的な解決策としては主に次の二つが考えられます。
・システム化
・アウトソーシングの活用
BPMツールの導入がうまくいかない
プロセス管理を円滑化するための「BPM(Business Process Management)ツール」というものがあります。
うまく活用すればプロセス管理の課題解決には直結するはずですが、自社のプロジェクトにあわないツール導入の失敗が、かえって効率性の妨げになる場合もあります。例えば、次のような状態で無理にツール導入し、運用しようとすると「運用することがビジネスの負担になる」という本末転倒な自体が起こる可能性があります。
・そもそもプロジェクトやビジネスのプロセスが確立されていない
・スタッフがツール導入の意義を理解していない
・現場の人間がツールを適切に扱えない
こういった場合は、業務プロセスの整理やスタッフの教育・研修がBPMツールの効果を最大化するカギになるのです。
BPMを主導するリーダーシップの不在
プロセス管理には相応に専門性が必要ですが、一般企業の場合、必ずしもプロジェクト管理やプロセス管理の素養がない人がマネージャーに就くケースも少なくありません。
そのような場合には、次のような作業によりプロセス管理を適正化することが可能です。
・マネージャーごとに判断すべき領域を定義
・プロジェクトを客観的に評価し、必要に応じてシニアレベルにエスカレーションするメンバーを設定
・承認時には進捗の確認や残った課題に対する対策を整理
プロセス管理の注意点
実際におこったプロセス管理にまつわる失敗や課題の事例をふまえると、次のようなポイントに注意すると良いでしょう。
・プロセス管理に手間をかけすぎない
・自社に沿った管理方法の構築
・プロセス管理スキルを持つ人材が必要
プロセス管理におけるチェックポイントや報告箇所、品質の検証などを細分化しすぎると当然ながら管理の負担は増大します。過剰な管理でプロジェクトの進捗を妨げては本末転倒なので注意しなければなりません。
一方で、明らかに必要なプロセス管理すらままならないような場合は、先に紹介した事例のように、アウトソーシングやシステム化などで業務を効率化し、プロセスを管理しやすい業務環境を整えるのが良いでしょう。
プロセス管理の成功のためのスキル
プロセス管理をうまく回していくためには、相応の専門スキルが必要になります。コンサルファームで活躍するにも、将来事業会社でマネジメントとして働くにしても、質の高いプロセス管理能力は、自分の付加価値を高めてくれます。
プロセス設計のスキル
プロセス管理においてはまず、自らプロジェクトやビジネスのプロセスを設計する能力が求められます。
PDCAサイクルへの理解と実践
プロジェクトやビジネスにおけるプロセスを改善していくにも、また自身のプロセス管理スキルを高めるうえでも、PDCAサイクルを理解し、意識的に回していくことが重要です。
プロセス管理の中で課題を発見し、計画→実行→評価→改善というPDCAの流れで改善させ続けることが大切です。ときにはプロセス管理の手法自体に改善策の策定と実行、評価のサイクルが求められる場合もあるでしょう。
ビジネスプロセス再設計に向けたスキル
どんなに優れたプロセス管理をおこなっていても、計画通りにことが運ばず、プロセスを練り直さなければならなくなる可能性はあります。
計画通りの進捗が困難になったときに、ビジネスプロセスの再設計を円滑におこなうことも、プロセス管理の範疇であると考えられます。
次のようなアクションがうまく取れれば、円滑にビジネスプロセスの再設計が可能になるでしょう。
プランニング(計画)
プロジェクト全体のプランニングではなく、プロセスを再設計するためのプロセスのプランニングです。新たなプロセスの素案、対応する人材の配分などを決める必要があります。
分析と設計
現状のプロセスにおける改善点や問題点を分析し、結果を受けて新たなプロセスを具体化させていく能力です。なお、マネージャーが分析を全て行わなければならないというわけではありません。プロジェクトに高度な専門性が要求される場合には、分析・設計をおこなう適切な専門家を雇い、結果を取りまとめるのも重要なスキルです。
インタビューとファシリテーション
プロセス再設計のためには、現場の意見や分析結果をうまく吸い上げていかなければなりません。また、ミーティングなどで現場の意見を的確に引き出すファシリテーション能力も必要です。
コミュニケーション
既存のプロセスを変えるとなると、多くの場合は不満や反発の火種が発生し、マネージャーは交渉や折衝が必要になります。そこではベーシックなコミュニケーションスキルが活きてきます。
既存のプロセスが機能不全に陥った時に、より優れたプロセスを円滑に構築できる能力が、プロセス管理においては求められるのです。
まとめ
今回の記事では、プロセス管理の課題と解決策の具体的方法について解説しました。コンサルティング案件などを探している方、事例を知りたい方は、ぜひfoRProまでご相談ください。