目次
はじめに
IT業界は市場規模も労働者数も伸びている状況です。しかし労働者数の増加よりも人材への需要増加の方がスピードが早く、結果的に人手不足が深刻化しています。そして課題は人手不足だけではありません。
IT業界の今後を握る技術にはどのようなものがあるのか、IT業界はどのような課題を抱えているのか、などについて解説していきます。
IT業界の現状
IT業界全体で見ると、右肩上がりに伸びています。市場規模、労働者数、業界内や他業界からの需要、どのような切り口で見ても伸びている業界と言えるでしょう。どの業界でもIT化が推進されていて、IT業界への需要が生まれるからです。
IT業界の市場規模(直近3年の市場規模と労働者数の比較表)
IT業界の市場規模に関するデータは複数存在します。ここでは、矢野経済研究所のデータをご紹介します。
まず市場規模の推移は以下のようになっています。
2018年度 | 2019年度 | 2020年度 | 2021年度 | |
国内IT市場 | 124,930人 | 128,900人 | 129,700人 | 135,500人 |
前年度比 | 102.8% | 103.2% | 100.6% | 104.5% |
参照:https://www.yano.co.jp/press-release/show/press_id/3150
市場規模は右肩上がりに推移しています。市場規模はIT投資額ベースで計測されています。新型コロナウイルスの影響でITへの投資額が伸びたと言われていますが、実際はコロナ以前から右肩上がりに推移していて、コロナ禍でさらにITの需要が伸びたという状況です。
次に、総務省統計局から情報通信業の就業者数と対前年度比増減を紹介します。
2020年度 | 2021年度 | 2022年度 | |
就業者数 | 241万人 | 258万人 | 272万人 |
対前年度増減 | +11万人 | +17万人 | +14万人 |
参照:https://www.stat.go.jp/data/roudou/sokuhou/nen/ft/pdf/index1.pdf
年々就業者数が増加していることがわかります。情報通信業には映像業界なども含まれるので厳密にはIT業界と異なる業界も含まれていますが、IT業界も大きなシェアを占めています。
DX化の推進
DXはデジタルトランスフォーメーションの略です。DX化はIT化と似ている概念ですが、DX化はIT化から一歩踏み込んだ概念になります。ITツールを導入すればIT化にはなりますが、DX化にはなりません。
DX化では、ITを含むデジタル技術を導入し、その結果ビジネスを変革することなどが求められます。つまりITツールを導入すればIT化、その結果大きな成果に結びつけばDX化になるということです。
どの程度の成果に結びつけばDXと言えるかの明確な定義はありませんが、幅広い業界でDX化が推進されています。DX化の推進によって土台となるITの需要も伸びるため、DXの波はIT需要を下支えています。
AI黎明期
AIの普及によって社会が変革しつつあります。AI技術自体は以前からありましたが、実用化の段階に来ています。そのため、現在は黎明期と言われることがあります。AIの需要、AIエンジニアなどAIに携わる人材への需要は現状伸びていて、今後はさらに伸びていくでしょう。
クラウドサービスの普及
クラウドサービスは現状一般的に利用されるようになっています。大規模システムをオンプレミス(自社サーバー内などに構築するシステム)からクラウド移行している企業も多いです。小規模なシステムは当然クラウドサービスが主流になっています。
クラウドサービスが普及しているため、クラウドサービスに携わる人材への需要が高まっています。ソフトウェア系エンジニアでもインフラ系エンジニアでも、クラウドサービスのスキルが求められることが増えています。今後クラウドサービスでのIT需要はより増えていくでしょう。
IT業界の将来
次にIT業界の将来についてです。
市場規模
IT業界の市場規模予測です。矢野経済研究所からのデータをご紹介します。またデータは2021年時点のものです。
2023年度 | 2024年度 | |
国内IT市場 | 144,000人 | 146,000人 |
前年度比 | 102.2% | 101.4% |
参照:https://www.yano.co.jp/press-release/show/press_id/3150
市場規模は引き続き緩やかな右肩上がりに推移していく予測になります。現状は上でご説明した通り、AI化、DX化などによりIT需要が伸びています。今後もこの傾向がそのまま続くという予測に基づいているのでしょう。
今後のIT業界を握るカギ
今後のIT業界を握るカギとなる技術、サービスを紹介していきます。
ロボットの活用
幅広い業界でロボットが活用されています。具体的には、製造業界、物流業界、サービス業界、医療業界、建築業界、農業界などが挙げられます。ロボットを導入する理由は、生産性向上、人件費削減などです。
ロボットが自動で作業を行った方が効率的で、また人間の労力負担を軽減できます。物流業界や製造業界でもロボットは導入されているのですが、一般消費者にとってはサービス業などが身近でしょう。接客や会計にロボットが導入されていて、目にする機会も多いはずです。今後もロボット活用は進んでいくでしょう。
AI
AIについては説明するまでもないかもしれません。身近な家電、クレジットカード、工場での不良品検知、オンラインツールなどいろいろなところでAIは導入されています。AIは機器に組み込まれているだけでなく、機器の製造過程でも活躍します。
具体的には、AIによるプログラミングが進んでいます。ChatGPTなどでも、仕様を入力すればプログラムを出力可能で、コードは実用性のあるものです。今後AI活用が進めばIT業界での生産効率が向上し、結果的に多くの業界でよりシステムが導入されるようになるでしょう。
ビックデータ
ビッグデータは日々生成される膨大なデータです。データ自体は今までにもあったものですが、ビッグデータ活用技術の進化によって、今まで収集・分析していなかったデータを活用できるようになっています。
ビッグデータを活用することで、マーケティングやロスの削減につながっています。ビッグデータはあらゆるところで活用されていますが、たとえば消費者行動を分析し、生産数を最適化するといったことが挙げられるでしょう。
メタバース
メタバースとは、インターネット上に構築された仮想空間のことです。ユーザーは自分のアバターを使って仮想空間内で行動できます。メタバースはゲームなどのエンターテインメントでも活用されていますが、会議など多くの企業にとって身近なところでも使用されています。
web3.0
web3.0は分散型インターネットのことです。従来のインターネット上のデータは、すべてどこかのサーバー上にありました。クラウドサービスなどもそこにあたかも仮想のサーバーがあるように構築しているだけで、その裏側には必ず物理的なサーバーが存在します。
つまりすべてのデータは特定のサーバー上に中央集権的に集められている状態だったのですが、web3.0ではブロックチェーン技術を利用してデータを分散させます。分散させたデータを合わせることで、一つのまとまったデータとして利用する仕組みです。
IT業界の課題
現状も将来的にも明るい面の多いIT業界ですが、課題もあります。
人材不足
IT業界の労働者数は、上でもご紹介した通り一見すると安定的に推移しています。しかし、需要に対して供給は追い付いていません。つまり、供給不足の状態で安定的に推移しているということです。
特に先端技術に関する人材はより不足しています。人手不足の状況下で技術が進歩すれば、さらに人手不足は加速します。ただしたとえばAIの普及は開発を自動化するのでIT業界の人手不足問題も解消する可能性があります。
IT化、DX化によって人手不足問題を解消している業界は多いですが、実はIT業界でもツールによる人手不足解消には強い需要があります。
レガシーシステムへの対応
レガシーシステムとは、古い技術で構築されているシステムのことです。平たく言えば、古いシステムと考えると良いでしょう。そして大規模システムにはレガシーシステムも多いです。具体的には、官公庁や金融業界の基幹システムはレガシーシステムが多めです。
レガシーシステムは扱える人材の高齢化が進んでいて、また若手の人材も集まらない状況です。単純にシステムとしての効率が悪いという問題もあります。しかし規模が大きい分移行が難しく、結果的にレガシーシステムのまま運用されています。
国際競争のさらなる激化
ITエンジニアが使用するプログラミング言語は万国共通です。また業務の性質上オンラインで完結しやすく、場所を選びません。その結果、オフショア開発など人件費の安い国に開発を外注するケースが増えています。
オフショア開発などが増えれば国内のエンジニアは仕事を失いやすくなります。人材だけでなく、システム自体も他国のものを使用しやすいです。そのため、人材もシステムも国際競争が激化していくということです。
IT需要はこれからも拡大していく
IT業界には課題もあるということでしたが、それによってIT需要がなくなることはありません。むしろIT需要が拡大しているからこそ発生している課題が多いです。今後の推移としては、技術革新やサービス革新が起こらなければ緩やかな右肩上がりに市場規模や労働者数が動いていくでしょう。
ただし大きな技術革新やサービス革新があれば、市場規模が一気に伸び、その結果労働者数も一気に増える可能性があります。
先端技術を身に付けることでフリーランスの道も
AI技術をはじめ、先端技術が伸びている状況です。そして先端技術に対応できるエンジニアが少ないため、需要過多の状況です。需要過多ということは、技術を身に付ければエンジニアとしての需要が大幅に高まるということです。
先端技術はフリーランス案件も多いため、先端技術を身に付ければフリーランスの道もあるでしょう。技術力があれば営業活動をそれほど行わなくても、仲介サービスなどを利用して簡単に高単価案件を獲得できます。
まとめ
IT業界の今後を握る5つのカギは、ロボットの活用、AI、ビックデータ、メタバース、web3.0です。これらの技術は今後より普及し、人材への需要増加にもつながります。IT業界の市場規模、需要は伸びていますが、それと同時に人手不足も深刻化しています。
AIなどは技術の進化によって業務を自動化し、IT業界でも必要人員を削減する可能性があるでしょう。しかしすぐに多くを自動化できるわけではなく、どうしても人間の手も必要です。長期的には必要人員を減らして開発を効率化できる可能性がありますが、当面は人手不足の状況が続くでしょう。