コンサルティング業界において近年引き合いの多い「PMO」(プロジェクトマネジメントオフィス)。
特にIT業界では多くの企業がPMO設立に取り組み、この組織を中心にプロジェクトマネジメントを行っています。IT業界に関わる方には馴染みがあるキーワードだと思いますが、世の中では「PMO」という言葉ばかりが先行しており、実際にどういう役割なのか、どういうスキルが求められているのか、具体的に説明できる方は少ないのではないでしょうか。
本記事では、コンサルティング業界で求められるPMOの役割や期待値等、PMOの全体像についてご紹介します。
目次
PMOとは?
PMOの定義
プロジェクトマネジメントオフィス (PMO)は、PMBOK*1によると「プロジェクトに関連するガバナンス・プロセスを標準化し、資源、方法論、ツール、および技法の共有を促進するマネジメント構造」であると定義されています。簡潔に言うと、プロジェクトが円滑に推進できるようにプロジェクトマネジメントの支援を横断的に行う機能を提供する組織であると考えられます。近年ではPMO支援を専門とする企業やPMO普及のための非営利組織(日本PMO協会)も設立されています。
*PMBOK: Project Management Body of Knowledgeは、「プロジェクトマネジメント知識体系ガイド」の略語。プロジェクトマネジメント協会 (PMI) が発行。
PMOの役割
PMOは本来、どのような機能と役割を果たすべきでしょうか。企業におけるプロジェクトとは、企業価値創造のための投資活動であると言えます。プロジェクトの成果を最大限に引き出すことは投資効率を高めることであり、企業における重要な経営課題であるといえるのではないでしょうか。また、企業経営から見た場合、常に同時並行的に複数の目的をもったプロジェクトが進んでいます。そのような中、プロジェクトには以下のような特性が存在しており、結果として多くのプロジェクトが失敗に終わっているのが現状です。
- プロジェクトのスコープが煩雑である。
- プロジェクトの利害関係者が社内外に複数存在する。
- プロジェクトは限られた期間で成果を出すことが全てであり、一度動き出すと止めることが難しい。
- プロジェクトは独自性が強く、放置すれば勝手に動いてしまう。
- プロジェクトは具体的な目的にフォーカスして推進されるため、その目的以外のものは排除しようとする。
- プロジェクト組織は内部にフォーカスした組織であり、外部から孤立しやすい。
ここでは、そのような特性を持つプロジェクトを円滑に推進し、成功に導くために必要となる一般的なPMOの機能と役割について、大きく4つに分けてご紹介します。
下記の通り、PMOと聞いてまずイメージするプロジェクトの進捗や課題管理にかかわるような管理業務から、プロジェクト内の標準的なフレームワークや計画の策定、問題発生時のリカバリー支援やマネジメント層へのメンタリング、PMやメンバーの教育等、プロジェクトの根幹を支えるような幅広い役割が求められます。
PMOに求められる機能と役割
プロジェクトチーム支援
- スケジュールの維持管理
- 進捗報告書の作成
- 管理上煩雑な業務の引受、プロジェクトメンバーの負荷軽減
コンサルティング・スケジュール等の作成支援
- プロジェクトの開始準備補助
- プロジェクトニーズへの対応
- リスク評価
- プロジェクトのリカバリー対応
- マネジメント層へのメンタリング
- トップマネジメントへの情報提供
基準
- 手法の開発
- 維持プロジェクトの各種プロセス策定
- 標準化
- ドキュメント、使用ソフトウェアの基準
- ベストプラクティスの把握と実行
(参考:「プロジェクトマネジメントオフィス」 T.R.ブロック・J.D.フレーム著 / 生産出版)
人材開発
- PM教育及び社内定着化
- プロジェクト従事者へのメンタリングおよびサポート
- 組織ニーズへの対応
また、PMOは下図のようにプロジェクト毎に個別に設置したり、PMO専門チームを常設して必要に応じて各プロジェクトを支援するケースもあります。
PMOとPMの違い
PMとPMOは名前も似ていることから混同されがちですが、果たすべき役割が異なります。ただし、両者ともプロジェクトを円滑に推進し、成功させるという目標は同様に持ち、プロジェクトを推進していきます。
PM
プロジェクトの実行に重点をおいて活動します。プロジェクト推進における責任を持ち、各重要な局面で意思決定を行うことが求められます。例えば、プロジェクトメンバーやビジネスパートナーの選定から案件の受注に始まり、PMOからサポートを受けプロジェクト管理業務も遂行し、意思決定を行っていきます。プロジェクト全体を俯瞰し、的確な判断を行いながら、プロジェクトを推進することが求められます。
PMO
上記と対比して、PMOはプロジェクトを管理することに重点をおいて活動します。PMが正しく意思決定できるようサポートを行い、プロジェクトを円滑に進めるための管理業務や課題の検討支援など多岐にわたる管理業務を担当し、PMを補佐します。あくまで補佐役としてプロジェクト内の実作業は行わず、サポートを行う立ち位置となり、PMでは対処しきれないところまで状況を把握し、管理を行っていくため、幅広いスキルが求められます。
PMOの必要性
PMOをプロジェクトに導入することで、「プロジェクトの状況可視化」「プロジェクトの意思決定の円滑化」といった効果を得ることができます。
プロジェクト状況を可視化できる
プロジェクトの状況を可視化するためにはプロジェクト管理上の項目を適切に定め、全体からの情報収集を定期的に行うことが必要不可欠です。PMOを配置することで、プロジェクト管理計画の策定から運用・推進までを任せることができ、プロジェクト状況の可視化を実現することができます。
プロジェクトの意思決定を円滑に行える
プロジェクトの状況可視化活動によりプロジェクト全体の情報をPMOが吸い上げることができます。これにより、課題発生したリスクが顕在化した際の現状整理・対応案の策定、PMへの情報共有をスムーズに行うことができるようになります。情報共有後にはプロジェクトのステークホルダーとの調整サポートもPMOが担うことで、意思決定スピードを向上させることにつながります。
上記2点の効果が求められるプロジェクトは、PMOの必要性が高いと言えます。
PMOの種類
PMOに求められる役割は多岐に渡ります。ここではPMOの中でも代表的な役割について触れていきます。代表的なPMOの種類としては次の4つが挙げられます。
- PMC(プロジェクトマネジメントコンサルタント)
- PMA(プロジェクトマネジメントアナリスト)
- PJC(プロジェクトコントローラー)
- PJA(プロジェクトアドミニストレータ)
PMC
PMCはPMOの中でも、特にPMを補佐する位置づけとして、プロジェクト全体をリードしていく役割となります。
PMO全体の統括を行うことに加え、プロジェクトの重要な意思決定をするにあたってのPMサポート、それに伴うクライアントの経営層向けレポート作成など、プロジェクト組織体制上のトップ層のサポートを行うタスクを主に担当します。
そのためPMCにはプロジェクトの将来的な工程を見越した大局観や、プロジェクトのステークホルダー全体を巻き込んだ調整能力が求められます。
PMA
PMAはPMOの中でも、各種意思決定に係る分析業務や分析の結果得られた知見をもとにPMO内部およびPMO向けのアドバイスを行う役割となります。
先に述べたPMCやPMが意思決定を行う際に適切な意思決定を行うためのインプットを提示する、プロジェクトの先を見越した課題・リスクを潰し込むために必要なデータを収集して分析するタスクを主に担当します。
そのために、PMAにはデータ分析スキルや分析のために必要なデータを必要な時期にプロジェクト内外から吸い上げるための計画・調整スキルが求められます
PJC
PJC(プロジェクトコントローラー)はPMOの中でもプロジェクト管理上の管理情報を可視化し、適切な状態とする業務を行う役割となります。先に述べたPJAは管理情報を分析して、PMやPMCの意思決定インプットを提示するタスクを行いますが、PJCはPJAが分析するための情報を整備するタスクを主に担当します。
プロジェクト管理上必要な情報を最新化して定性・定量的な情報を常に見える化しておくといった、プロジェクトとしてあるべき管理項目を適切に理解するだけでなく、管理項目の状態とプロジェクトの実態に乖離がないかを常に監視するという、プロジェクト全体の現状把握スキルが求められます。
PJA
PJAはPMOの中でもプロジェクト上の管理業務・定型業務を行う役割となります。
PJAが特定の管理業務や定型業務を行うことで、プロジェクト全体の生産性向上につながる業務があるかどうかを確認し、効率的に実施する方法を検討・実施するタスクを主に担当します。
プロジェクト内の組織横断的な目線を持つこと、プロジェクト全体の要員計画などを踏まえたうえで各タスクの実施時期をプランニングする目線が求められます。
PMOのタスク内容
ここでは代表的なPMOタスク例について触れていきます。多くのプロジェクトでPMOとして実施するタスクは「プロジェクト管理項目・方法の策定」「運用の定着化」になります。
プロジェクト管理項目・方法の作成
プロジェクト管理項目・方法の策定は、PMBOKなどで定められているプロジェクト管理項目のうち、そのプロジェクトに合った管理項目を定めていきます。具体的には進捗管理や課題・リスク管理などを行う際に、情報管理を5W1Hの観点でどのように行うかを定め、プロジェクト全体でどのようにプロジェクト管理を行えばよいか分析することが求められます。
進捗管理であればどのようなサイクルで定量・定性的に情報を提示するべきかを定めます。課題・リスク管理であれば課題の優先度やリスク発生可能性の定義、エスカレーション経路を定めるといったことを定義する活動を行うことになります。
運用の定着化
プロジェクト管理の運用定着化に関しては、プロジェクトメンバーに対して地道にルールの周知・徹底を行う活動と、情報収集に関するプ対応工数削減施策を行うことが必要になります。特に後者に関しては情報収集の仕組みを一部自動化する等、プロジェクトメンバーの負荷を軽減することで本来のタスクに集中できるような仕組み・環境づくりもPMOには求められます。
PMOの活動アプローチ方法
PMOの活動・タスクのアプローチは下記の3種類に分類されます。先に述べた4つの役割においても、状況に応じて下記のアプローチをとることになります。
支援型
支援型PMOは、プロジェクトとして必要な事務・庶務作業などを通じてPMをサポートするタスクやプロジェクト全体の質向上につながるタスクを実施します。先に述べた役割では主にPJAがこのアプローチをとることが多くなります。またPJA以外にも、プロジェクトに対する強制力が小さい場合、PMOとしての権限が弱い場合にはこの形でアプローチすることが多くなります。
コントロール型
コントロール型PMOは、プロジェクト全体の枠組みを策定するタスクやプロセスに準拠しているかを確認するタスクを実施します。先に述べた役割では主にPJCがこのアプローチをとることが多くなります。
指揮型
指揮型PMOは、データや情報の分析や、会議でのファシリテーションや討議推進といったPMサポートタスクを実施します。先に述べた役割では主にPMC・PMAがこのアプローチをとることが多くなります。PMの経験が浅い場合などにはこの指揮型アプローチが効果的に働く場合が多いです。
PMOを導入するメリット
プロジェクトを総合的に支援するPMO導入により、様々なメリットがあります。「日本PMO協会」によれば、以下2つの視点におけるメリットがあると定義しています。
現場視点でのメリット
下記のような様々なプロジェクト管理項目の高度化が期待されます。PMだけでは対処できない管理業務の高度化により、現場レベルでの業務負荷軽減や問題の早期発見や解決が促進されると言えるでしょう。
- プロジェクト教訓
- 手法・ベストプラクティスの共有
- プロジェクト品質の高度化
- プロジェクト関連リソース確保
- 調達の迅速化
- プロジェクトスケジュール管理の高度化
- プロジェクトスコープ管理の高度化
- プロジェクトコスト管理の高度化
- プロジェクトリスク管理の高度化
- プロジェクトメンバーとのコミュニケーションの高度化
- プロジェクトステークホルダー管理の高度化
マネジメント視点でのメリット
プロジェクト状況が可視化され、マネジメント層が容易に状況を把握できるようになり、様々な局面で迅速かつ的確に経営上の意思決定を行うことができることに繋がり、その結果、ビジネス価値が最大化されることに寄与すると考えられます。
- 経営戦略のより確実な履行、ビジネス価値の最大化
- プロジェクトマネジメントの進行に適切な環境の整備
- プロジェクトマネジメントの手法・知識の標準化
- プロジェクト進捗・状況の「見える化」および確認の最適化
- プロジェクト優先順位付けおよび経営判断の迅速化
- プロジェクトマネジメント人財の安定的育成
- プロジェクトへの経営者支援工数の軽減
PMOを導入するデメリット
PMOを導入するデメリットとしては、プロジェクト管理を重視するあまり、情報の管理そのものが目的となってしまい、「プロジェクトメンバーとのコミュニケーションコストが増加してしまう」点が挙げられます。
特に、現場の細かい点の確認・状況把握にとらわれてしまい、重要度の低い情報収集のためにプロジェクトメンバーに負荷を与えてしまうことも多々あります。
プロジェクト管理そのものは重要ではありますが、あくまでも目的はプロジェクトの円滑な推進にあるため、「管理のための管理」となってしまうことのないように注意する必要があります。
PMOを導入すべきケース
PMOを導入すべきケースとしては、「PMやプロジェクトメンバーが兼任してプロジェクト管理を行うことが難しい場合」が挙げられます。特に大規模プロジェクトであれば収集する情報量も増え、関係するプロジェクトメンバーも多くなることから、プロジェクト管理の厳格化やプロセスの整備というタスクの重要度は高まります。
PMがプロジェクト全体概要を把握することが難しいプロジェクトは、PMOを導入すべきプロジェクトであると言えます。
PMO導入の判断軸
PMO導入を判断する際、「プロジェクトに必要なPMOがどのようなタイプ・役割であるかを明確になっているかどうか」が導入する判断軸となります
プロジェクト管理が適切にできていないプロジェクトであれば、支援・コントロール型のPMOを、発生する課題量が多く課題解決のスピード感向上が求められるプロジェクトであれば指揮型のPMOを導入することが重要になります。
PMOに役立つ資格
PMP(Project Management Professional)が挙げられます。プロジェクトマネジメントの専門家であることを証明する資格で、米国のプロジェクトマネジメント協会であるPMIが、PMBOKガイドに基づいて認定する国際資格です。受験者のプロジェクトマネジメントの経験や知識だけではなく、マネジメントに対する姿勢などの実務的な内容も問われます。
資格取得を奨励している大手コンサルティングファームもあり、取得や維持にかかる費用等の補助を行っています。官公庁の案件では入札要件としてPMP保持者の参画が要件として設定されるケースもあるようです。
PMOに求められるスキル
PMBOKで定義されているプロジェクト管理にかかる手法や知識、コミュニケーション能力といったプロジェクト管理というワードから容易に連想できるような必須スキル以外には、コンサルタントとして必要となる以下のようなコア・コンサルティングスキルが求められると言えるでしょう。
ロジカルシンキング(論理的思考力)
複雑に関連するプロジェクト内の要件や課題等を単純な要素に分解、整理(MECE)し、特にマネジメント層やプロジェクトのステークホルダーに筋道を立てて整理した結果を提示し、プロジェクトの合意形成を図れるよう、PMを支援することが求められます。
課題解決スキル
前述のロジカルシンキングに基づき問題を分解・分析して解決策を提案して終わりということではなく、具体的にどのように実現し、誰がどのような形で実行し、いつまでに完了する必要があるのか等、実行に移せるレベルの計画までブレークダウンし、プロジェクトを推進することが求められるでしょう。
スライドライティングスキル
スライドライティングは、会議の議事録作成といった文章作成スキルと同様に重要なスキルの1つとなります。どれだけロジカルに物事を考えることができ、議論をリードできたとしても、それを最終的にまとめて伝えるためのアウトプットのレベルが低ければ、重要なステークホルダーとの合意形成に失敗してしまうリスクが高まります。
PMに求められるスキル(参考)
PMにも上記PMOに求められるスキル求められますが、それに加えて、テクニカルスキルやプレゼンテーションスキル、判断力が必要となります。
テクニカルスキル
IT系のプロジェクトにおいては、業務内容や、システム開発に利用される技術的な知識等も欠かせないスキルとなります。また、コストの算出や要員計画等を緻密に策定するためには、各フェーズでどのような作業を行っているか、どのような知見が必要なのか判断できるだけのテクニカル面でのスキルも必要となるでしょう。
プレゼンテーションスキル
プロジェクトの各工程でクライアントと合意形成を図っていくことが、PMには求められます。そのため、事前にPMOや各施策のPL等から支援を受け作成した資料を基に、クライアントのステークホルダーへ内容を端的かつ明快に説明を行い、確実に合意形成を図っていくことが求められます。
判断力
前述のPMOとPMの違いでも触れた通り、PMには各重要局面において意思決定を行い、プロジェクトをディレクションしていくことが必要となるため、的確な判断を下す判断力が必要となります。
おわりに
PMOは特別なスキルがなくても実施できる単純な進捗状況の取りまとめや課題件数の集計や期限の確認等、事務局的な役割のように思われているケースもありますが、前述の通り決してそれだけで務まるものではありません。
PMの補佐役として、影の参謀役として、PMを指導し、補佐するための高いスキルや経験が必要となります。コンサルティングファームにおいてPMOといえばそのようなPMOを指し、様々な企業の重要かつ難易度の高いプロジェクトの成功請負人として日々躍進しています。
まとめ
今回の記事ではPMOとPMの違いについて解説しました。PMO案件などを探している方、事例を知りたい方は、ぜひfoRProまでご相談ください。