システム刷新が必要なケース
システム刷新とは、業務効率の改善や生産性の向上を目的とし、これまで使われてきたシステムを新たなシステムに置き換えることを指します。ここでは、レガシーシステムの刷新が望ましいと考えられるケースを紹介します。
システムのブラックボックス化、保守性の低下
繰り返し行われるメンテナンスのたびに、業務の内容に応じた細かな変更を加えることで、現行のシステムが肥大化・複雑化してしまうことがあります。
担当者の入れ替えなども考慮すると、時間が経つにつれ、システムの全容を把握することができる人材は少なくなっていき、結果として、システムのブラックボックス化が進んでしまいます。システム障害が発生した場合にも、原因の特定に時間がかかってしまい、企業にとって大きな損失となりかねません。
経済産業省は、複雑化・ブラックボックス化が進むレガシーシステムが企業活動上の足かせとなっているケースが多く存在することを指摘しています。
また、レガシーシステムの存在により、目まぐるしく変化をとげる世界的なビジネスの流れから後れをとってしまうと、2025年以降、年間あたり最大12兆円の経済損失が発生する恐れがあると公表しています。
業務の変化に対応することができない
多くの企業では、時間が経過すると、業務の内容や業務のプロセスが変化することが一般的です。軽微な変化であれば、現行のシステムを一部見直すことで対応することもできますが、大幅な業務の見直しを行う際には、現行システムの改修では間に合わないケースも存在します。
レガシーシステムのメンテナンスだけでは、思い描く業務改革を進めることはできません。旧来型のシステムを新たなシステムに置き換えることで、大幅な業務改革を実現していくことが可能となるのです。
外部のシステムと連携することができない
近年、行政および企業横断的なデータ連携が活発化しつつあり、複数のデータを活用することによる新たなサービス・テクノロジーの開発が進んでいます。
データ連携によって新たな取り組みを生み出した例としては、以下のようなものがあげられます。
- 行政が持つ大量の介護データと、企業において蓄積してきた介護ノウハウ・実績に関するデータを掛け合わせ、新たな介護サービスを企画
- 複数の商業施設・観光施設が自社データと他社データを掛け合わせ、人の流れや商品の販売傾向を分析し、来訪者向上・販売促進につながる新たな施策を立案
このような連携を円滑に進めていくためには、情報の取り扱いに関する制度面へ配慮することはもちろん、技術的な観点から、他の組織のシステムと簡単に接続することができるという特徴をシステムが備えることが不可欠です。
システム刷新の進め方
システム刷新は、以下の流れに沿って進めることができます。
- 目的の明確化
- 推進体制の構築
- 現状把握、課題の洗い出し
- システム刷新方針の検討
- システム開発・移行
- 新たなシステムの運用
ここでは、それぞれのポイントを順番に紹介します。
目的の明確化
最初に行うべきことは、システム刷新に取り組む目的を明確にすることです。現行のシステムでは目的の達成が困難であること、現状の課題を解決していくためには、システムの刷新が必要であることを全社的に浸透させ、共通の認識を作り上げていくことが重要です。
推進体制の構築
業務の効率化を目的としたシステム刷新を進めていくためには、関連する業務の課題や特性を正確に把握することが欠かせません。
そのため、情報システム部門だけではなく、関連するそれぞれの業務部門からプロジェクトメンバーとしてチームに加わる人を選出していただくことが重要です。
現状把握、課題の洗い出し
現行のシステムの評価を行い、課題を洗い出します。これらを明らかにしておくことにより、現行システムを単に新しいシステム・技術に置き換えるだけで対応が完了してしまうという事態を避け、業務の改善につながるシステム刷新を実現していくことができます。
システム刷新方針の検討
現状の課題を解決することのできるシステムをどのように構築するのか、方針を固めてきます。
その際、留意すべき主な点は以下の通りです。
- システム刷新の目的に沿った内容となっているか
- 現場における現状の業務に対する不満点や改善点に対応することができるか
- システムの開発を委託するベンダーをどのように決定するか
- システムの保守・運用をどこまで外部委託し、どこまでを内製化するか
- 将来の業務内容や業務プロセスの変化、様々な外部システムとの連携を見据えて、柔軟な対応を取ることができるか
- システムの本格稼働時期を踏まえ、どのようなスケジュール感で対応を進めるべきか
システム開発・移行
策定した方針にもとづき、システムの開発・移行を進めます。
近年は、「要件定義→設計→開発→テスト→リリース」といった開発工程をひとつひとつの小さな機能単位で繰り返し行う、アジャイル開発が主流となっています。
新たなシステムの運用
システム移行の準備が完了したら、運用を開始します。スムーズな移行を実現するうえでの主なポイントは以下の通りです。
- 新たなシステムの活用方法の周知を徹底する
- 従業員より予想される問い合わせ内容をあらかじめ整理しておく
- 問い合わせがあった内容およびその回答をとりまとめ、全社的に共有する
システム刷新成功のポイント
システム刷新を成功に導くうえで、特に意識しておくべきポイントは次の通りです。
- システム刷新の本質は業務の改革
- 事業部門の上流からの関与
- 会社としてのオーナーシップの発揮
- 小さく始め、徐々に対応範囲を拡大
システム刷新の本質は業務の改革
システム刷新の目的は、あくまでも現状を改善することであり、新しいシステムを導入すること、それ自体が目的ではありません。
業務改革なきシステム刷新を進めてしまうと、次のような状態に陥りかねません。
- 単に新しいシステムで行う形に置き換えただけで、業務の効率化は実現していない
- 繰り返しシステム刷新の方向性を見直すこととなり、コストが大幅に増加する
事業部門の上流からの関与
システム刷新の本質が業務改善であることを踏まえると、実際に業務にあたる事業部門がどれだけ当事者意識を持ち、自分事として対応を進めることができるかが、プロジェクトの成否を分けるポイントです。
会社としてのオーナーシップの発揮
システムの開発を担うベンダーとの関係性も非常に重要です。目指すべき業務の実現に貢献することができるシステム構築を進めるにあたっては、委託元となる企業がオーナーシップを発揮し、細部にも十分配慮しながら、ベンダーをリードするという姿勢が欠かせません。
小さく始め、徐々に対応範囲を拡大
現在のビジネス環境は移り変わりが非常に激しく、1~2年前に要件定義に取り組んだシステムでは、現在のビジネス環境に対応できないという事態に直面することがよくあります。
そのため、アジャイル開発により、優先度の高い機能から早期のサービスインを図り、その後、少しずつ機能を拡張し、対応する範囲を拡大していくことが重要です。
システム刷新の成功事例
それぞれの事例において、先に紹介したシステム刷新成功のポイントを押さえながら、対応が進められています。
TOTO
TOTO株式会社では、中期経営計画のもと、「真のグローバル企業」としての経営体制の確立を目指し、すべての事業部門を横断した変革の取り組みを進めていました。
対応を進めていくにあたり、旧来型のプロセスを抜本的に見直し、システムの刷新を行うとともに、業務変革を実現していくという明確な狙いの認識共有を図りました。そして、重点的に取り組む領域をいくつか選定のうえ、システム開発・移行に着手していきました。
また、取り組みを進めていくにあたり「自らが主体的に業務改革を進めていく」というオーナーシップを発揮し、ベンダーの協力も得ながら業務の生産性向上を実現しています。
(参考:ビジネスエンジニアリング株式会社 基幹システム導入事例)
トラスコ中山
トラスコ中山株式会社では、他社が扱わない商品を積極的に取り扱い、在庫の充実を図るとともに、必要とされる商品を即納することで、顧客の利便性を高めています。
同社において、顧客の利便性をさらに高めるために、システム刷新を伴うサプライチェーン全体の業務改革を目指すこととしました。全社横断で現状の課題を洗い出し、未来志向であるべき業務の姿を検討し、改善すべきポイントを整理したのです。
そのうえで、ベンダーと連携し、あるべき業務を支えるシステムの開発を進めていきました。
(参考:IBM 基幹業務アプリケーションを拡張したお客様事例)
まとめ
今回の記事では、システム刷新のポイントについて解説しました。コンサルティング案件などを探している方、事例を知りたい方は、ぜひfoRProまでご相談ください。