近年のメタバース業界は医療分野において浸透してきており、VR空間を利用した医療技術の向上や遠隔治療の実現が期待されるようになりました。
この記事ではメタバースと医療業界の関係性について活用事例や今後の展望などを交えて解説します。
目次
メタバース空間における医療の活用とは?
メタバースと医療の関係性
最近では個人情報の記録、次回の診療予約、服薬管理などに「CureApp」や「Healthtech DB」などの医療用アプリを導入する医療機関が増えてきています。日常生活がデジタル化によって便利になったように、医療分野にもデジタル化の波が普及しつつあります
人の手による医療行為から、メタバース空間を使ったAIによる遠隔治療が主流になることが予想されます。遠隔操作で人間がかかりうるほぼすべての病気や疾患に対応できるようになり、より効果的な医療サービスの提供をめぐって競争が激化することは避けられないでしょう。
サービスの競争が激化すれば治療の安全性、有効性の実証にはより厳しい試験が求められるだけではなく、新薬開発や臨床試験をより短期間で開発する必要が出てくることになります。メタバースの医療分野進出は、従来の治療のあり方や医療従事者の動きを変えることになり、医療業界に新たな風を吹き込む転換点となるでしょう。
発展するデジタル医療
デジタル医療とは最新のデジタル技術を医療に活用し、医療効果を最大限に高めることを指します。デジタル医療に関する市場規模は増加の一途をたどり、クラウドシステムの導入や新型コロナウイルスの流行によって、さらなる市場の押し上げが予想されています。
スマートフォンを媒介して新型コロナウイルスの感染者と濃厚接触した可能性を知らせてくれる接触確認アプリ(COCOA)もデジタル医療の一環です。最近ではトイレの便座に集積データを組み込めるセンサーを設置し、利用者の健康状態を測定してくれる機能まで開発されました。
(参考:TOTOが健康に役立つ「ウェルネストイレ」の開発を表明、数年内の実用化目指す)
デジタル医療を上手く活用すれば、発見が遅れれば重大な疾患になる病気の早期発見に大いに役立ちます。病気の早期発見は医療費の削減につながる可能性があり、健康的な暮らしも実現させることができるのでメリットとなる部分が大きいです。
今後数十年のうちに紙の処方箋がなくなり、メタバース空間によるデジタル治療への移行が予想されます。この多角的な市場では、患者となる人のデータを様々な視点から分析して作られた処方箋をベースに、付加価値として患者が治療オプションを自由に追加することができるようになります。決済手段には暗号資産も使用可能なので、医療機関におけるサービスをより身近に感じる方が増えるようになるでしょう。
メタバースクリニック(メタ病院)とは
メタバースクリニック(メタ病院)とは、医師などの医療資格者による、医療相談、カウンセリング、セミナーをメタバース上で受けられるコミュニティーサービスのことをいいます。
メタバース上にはすでにメタバースクリニックが稼働しています。匿名のアバターを使って参加できるので「わざわざ病院を探し出して足を運ぶ必要がない」「人には話しづらいことも気軽に話せる」などのメリットがあるのです。
現在の病院の診療形態は対面診療が中心ですが、メタバースクリニックの普及により対面診療は必要な場合に限られ、それ以外はすべてオンラインに取って代わられることになります。遠方に住んでいて大切な人の診察に立ち会えないといったこともなくなり、世界のどこからでもメタバース空間でつながることが可能になります。
今後のメタバースクリニックでは通常の医療相談だけではなく、歩くことが困難な患者のためのコミュニティを作ったり、治療の疑似体験ができるなど将来的な期待が高まっています。
メタバースは医療分野でどう活用されるのか?
医療業界
メタバースは医療分野においてすでに浸透が広がっています。国内の有名どころとしては
「ジョリーグッド社」が大塚製薬と業務提携を提携し、国内200以上の医療機関、福祉支援施設に対して、発達障害に関するVRソーシャルスキルトレーニングを成功させています。
このトレーニングを通して、精神疾患を持つ患者の社会復帰や包括的な生活支援の推進が可能になり、その先の就労支援も視野に入れることができる段階まで開発が進んでいます。
(参考:精神科領域におけるVRを用いたソーシャルスキルトレーニングのプラットフォーム構築についてのジョリーグッド社と共同開発・販売契約を締結)
製薬業界
製薬業界でもメタバースの活用を積極的に表明しています。国内製薬大手のツムラ、住友ファーマなどがバーチャルMRを用意し、医薬品情報を明確に共有していくことを表明しています。
またアステラス製薬もバーチャルMRを導入し活用につなげているほか、研究会・シンポジウムにメタバースを活用していく方針を明らかとしました。仮想空間にライブ会場のような空間を作り出し、すべての参加者があたかもその場にいるように議題が進行していく点が特徴となります。カメラワークに工夫を凝らしたり聞き手を飽きさせないようになっているため、数社からの引き合いがあり、既に導入を決めている企業もあります。
今後も製薬業界には様々な形でメタバースが活用されていくことが予想されるため、従来の製薬業界の企業スタイルはIT企業に近いような形に変貌を遂げていくでしょう。
(参考:MRで患者と医師のコミュニケーション支援、メタバースでシンポジウム会場を再現 アステラス製薬)
創薬
創薬とは、これまでにない新しい薬を研究開発する分野です。
アメリカ・サンディエゴを拠点とする「Nanome」は、VR仮想空間で多元的に分子を分析、デザインするプラットフォームを開発に成功させ、すでに創薬分野での利用が始まっています。「Nanome」は、創薬にかかる時間とコストを大きく削減できるとの見通しが立っており、コロナ禍を背景に急速に注目度が高まりました。
創薬の分野においては、極めて機密性の高い情報ばかりを扱う必要があり、メタバースの普及には障害になりそうですが、「Nanome」は、共有空間を構築できるなどオープンな部分がある一方で、秘匿性の高い創薬プロセスを扱うことが可能なため、創薬に関わる情報を社内のみに限定するオンプレミス利用ができるようになっています。
(参考:メタバースとともに進化する医療テクノロジー、世界初ARを使った脊椎固定手術や創薬分野で大きな可能性)
メタバースを医療分野で活用する上での課題
どのように安全性を確保するか
メタバースでの医療行為でまずはじめに課題として浮上するのが、どのように安全性を確保するかです。
現実の医療現場では絶対にミスは許されないので、幾重にもわたるチェック体制が構築されています。メタバース上で医療行為を行うとなると、医療従事者だけではなくメタバース事業者も安全性について向き合う必要があります。
メタバースがどれだけ便利なサービスだとしても、安全性が担保できなければ意味がありません。利用者に対してどれだけ安全性をアピールできるかが重要になります。
どのように患者の個人情報を保護するか
メタバース上では患者の個人情報をどのように保護するかも考える必要があります。
メタバース医療プログラムはオンライン上で提供されるので、サイバー攻撃やハッキングなどのリスクに備えなければなりません。医療分野における情報は非常に繊細な情報を扱うので、Web3などの高度な情報運用技術を展開していく必要があります。
どのように患者を診察するか
メタバース上では患者の状態を直接見ることができないため、どのように患者を診察するかも考える必要があります。
患者の治療に関わるのは医療従事者だけという時代はまもなく終わりを告げることになります。メタバースによる包括的な医療サービスの開始により、いつどこにいても最適な治療を受けられるようになるのです。
メタバースの空間での医療サービスでは、患者に対してウェアラブル端末や埋込型のバイタルデータ測定器が普及し、常時稼働しているメタバースのデータによってすぐに記録できるようになります。その分医療従事者の負担が減ることになり、患者にとってはいつでもオンライン診療を受けられるような体制構築が急がれています。
メタバースは視覚的にもリラックスした空間を作り出すことができるので、患者にとって安らげる空間の創出に役立つでしょう。
医療分野でのメタバース活用事例
Holoeyes(VRを活用した遠隔医療の実現)
「Holoeyes」が提供するのが、VR上で手術のシミュレーションが行える「Holoeyes MD」です。オプションサービスの「Holoeyes VS」を利用することによって、メタバース空間内で複数の人間が同じバーチャルモデルを使って練習をしたり、問診を行うことも可能となりました。
どんな場所にいてもトレーニングが可能になり、手術中に起こりうる様々な事象にも対応しているため、医療従事者の技術向上、感染症対策にも大きな効果を期待できます。「Holoeyes MD」はすでに医療機器として現場で活躍しており、各診療科で活用事例があります。
(参考:Holoeyes、日本・シンガポール間で医療遠隔カンファレンスの実証実験 5GやXR技術を活用)
comatsuna(アバターを利用した対話によるメンタルケア)
株式会社comatsunaは、医師などの医療従事者による無料相談などを受けられるメタバースクリニックを運営しています。
メタバースにAI技術を組み合わせることによって会話をテキストに変換し、言葉やパターンから表面的な意味だけでなく、状況を推定し心的状態を予測出来る機能を搭載しています。
発した言葉が相手にとってどのような感情を呼び起こすのかを推定することができ、話者同士の深層心理を深く調べることも可能になっています。 この機能はヘルスケア、産業保健の分野において、個人のコミュニケーション能力や社会への適応能力向上に期待が見込まれています。
(参考:メタバースクリニックが開院【医師の専門性とゆるいつながりでヘルスケア】)
メタバースに関するコンサル案件
日本IBMと順天堂大学による新プラットフォームの開発
日本IBM株式会社と順天堂大学は、産学連携の取り組みとして「メディカルメタバース共同研究講座」を設置し、メタバース上での医療サービスの研究・開発に取り組むことを発表しました。
医療業界においては新型コロナウイルスの拡大、医療現場でのオンライン診断の活用が広がっている影響もあり、医療現場でのVR活用に向けた研究が進められています。
「メディカルメタバース共同研究講座」では、医療現場でのVR活用に加えて、メタバースを使った医療サービスの構築、医療現場における有効性の検証を目指しています。
具体的には以下の3つを活動目標として掲げています。
- 短期実施テーマとして、メタバース空間で順天堂医院を模した「順天堂バーチャルホスピタル」の構築や、患者さんや家族が来院前にバーチャルで病院を体験できる環境を検討していきます。また、ユーザーはアバターとしてバーチャルホスピタルを訪問し、医療従事者や患者さん、家族などと交流できることを目指します。
- また、外出が困難な入院患者さんが病院の外の仮想空間で家族や友人と交流できる「コミュニティ広場」を構想しています。他にも、バーチャルホスピタルにて、説明が複雑になりがちな治療を疑似体験することによって、治療に対する患者さんの理解を深めたり、不安や心配を軽減できるかの検証を予定しています。
- 中長期実施テーマとして、メタバース空間での活動を通じて、メンタルヘルス等の疾患の改善が図れるのかを学術的に検証する計画です。
(参考:順天堂大学とIBM、メタバースを用いた医療サービス構築に向けての共同研究を開始)
まとめ
2022年になりメタバースの世界には多くの企業が参入を果たしました。2026年度には国内メタバース市場は1兆円を超えるとの見込みがあり、地球上に住むほぼすべての人がメタバース空間による医療サービスを享受することが当たり前となるでしょう。
医療業界はほぼすべての分野においてメタバースとの結びつきが強く、既に導入して実績を納めているものや、導入検討段階で改良を繰り返しているものまで多々存在します。
今後のメタバース業界の医療進出によって、法整備に関する事案が議論されていくことは予想できますが、今後とも成長が見込まれていく分野であることは間違いないでしょう。
さいごに
今回の記事ではメタバースと一用業界の関係性についてご紹介しました。DX案件を探している方、事例を知りたい方は、ぜひfoRProまでご相談ください。