目次
はじめに
会社員から独立してフリーランスになると、社会保険の加入が必要です。社会保険は複数種類があり、加入が義務付けられているものと任意加入のものがあります。加入義務がある社会保険に未加入でいることは違法なので、懲役や罰金に科される可能性もあります。
では、どの社会保険が義務でどの社会保険が任意なのか、各社会保険がどのような内容になっているのか、などについて解説していきます。義務化されているものは当然加入が必要ですが、任意のものに加入するかどうかは内容を把握した上での判断が必要です。
また社会保険を経費にしたり控除したりすることも可能なので、法律の範囲内で安くする方法についても解説します。
会社員との違い
会社員とフリーランスでは、加入する社会保険が異なり、結果的に保険の支払額や保証内容が変わってきます。代表的な違いとしては、以下が挙げられます。
- 厚生年金と国民年金
- 健康保険と国民健康保険
- 労働保険の加入の有無
詳しくは後述しますが、上記のように会社員とフリーランスでは加入する保険自体が異なります。特に厚生年金と国民年金の差は顕著です。日本の年金制度は二階建ての構造になっていて、1階の基礎が国民年金、2階に厚生年金などが乗っています。
つまり、厚生年金に加入していれば国民年金の範囲もカバーしているということです。一方でフリーランスの場合1階部分しかないので、将来的な年金受給額が少なくなります。ただし、フリーランスも国民年金基金などで2階部分に上乗せすることは可能です。
加入義務のある社会保険
フリーランスに加入義務のある社会保険は以下です。
- 国民健康保険
- 国民年金保険
- 介護保険(40歳以上の場合)
逆に言えば、上記以外の社会保険は任意です。加入義務のある社会保険に加入しないと違法になり、懲役、罰金、延滞金などの可能性があります。そのため、上記の社会保険は優先的に手続きを済ませるべきでしょう。加入義務のある各社会保険の内容を解説します。
国民健康保険
フリーランスになるかどうかに関わらず、会社を退職したら原則として退職日の翌日から14日以内に国民健康保険に加入する必要があります。これは開業届等を提出していなくても同じです。
ただし例外として、会社の健康保険を任意継続する場合は国民健康保険への加入は不要です。会社の健康保険を任意継続する場合、退職後20日以内に手続する必要があります。手続きが遅れると国民健康保険しか選択できなくなるのでご注意ください。
会社の健康保険と国民健康保険のどちらを選択するかは、保険料額をシミュレーション比較して決めるのがおすすめです。一般的には一部控除があるので国民健康保険の方が安くなりますが、任意継続の場合は上限や扶養システムがあります。そのため、最終的にどちらが安くなるかはその人の収入や扶養家族の数によって変わってきます。
【必要な持ち物】
- 健康保険の資格の喪失日がわかる書類(離職票、退職証明書、退職日が記載された源泉徴収票など)
- 身分証明書
- マイナンバー(個人番号)が確認できるもの
- 印鑑
【手続する場所】
住民票のある市区町村
国民年金保険
フリーランスになると会社員時代の厚生年金を脱退し、国民年金に加入する義務があります。厚生年金の脱退手続きは会社が行うので、自身で行う必要があるのは国民年金の加入のみです。国民年金保険の加入も、国民健康保険と同様に原則として退職から14日以内です。
上でも少し触れましたが、日本の年金制度は二階建ての構造になっています。フリーランスの場合1階の国民年金は加入義務があり、2階部分は任意加入です。2階部分には、付可年金、国民年金基金、確定拠出年金などがあります。
【必要な持ち物】
- 退職を証明できる書類(離職票、健康保険喪失証明書、退職証明書など)
- 身分証明書
- 年金手帳
- 印鑑
【手続する場所】
住民票のある市区町村
介護保険(40歳以上の場合)
40歳以上のすべての国民に介護保険加入が義務付けられています。そのため、フリーランスに限った制度ではありません。介護保険加入に特別な手続きは不要で、国民健康保険に自動的に上乗せ徴収されます。国民健康保険に未加入の場合は、国民健康保険の加入手続きが必要です。40~64歳は第2号被保険者、65歳以上は第1号被保険者という区分けがあります。
加入義務がない社会保険
次に、加入義務がない、つまり任意加入、もしくはフリーランスは加入できない社会保険をご紹介します。具体的には以下が挙げられます。
- 労災保険
- 雇用保険
労災保険
労災保険とは、業務中や通勤時に負傷、疾病、傷害、死亡などが発生した際に、保険給付を行う制度です。もともと会社員のための制度なので、フリーランスは対象外でした。しかし、2021年からはフリーランスの人も労災保険への加入が可能になりました。
従来まではフリーランスは病気やケガで働けなくなれば、収入が大幅に減少するといった事態になっていました。労災保険に加入することで、このようなリスクを軽減できます。フリーランスは労災保険に加入する義務はないので加入しなければ節約になりますが、リスクに備えるために加入する人もいます。
雇用保険
雇用保険は、労働者が失業した場合に失業手当や援助を受けるための保険です。会社員の場合は基本的に加入が義務付けられています。一方で、フリーランスは基本的に雇用保険に加入できません。雇用保険は被雇用者を保護するための制度だからです。
ただし、フリーランスが人を雇った場合は事業者として雇用保険に加入する必要があります。この場合は任意ではなく義務ということです。
社会保険料を安くする方法
会社員からフリーランスになって、社会保険料が高くなる可能性があります。所得税などと合わせると、想定よりも手元に資金が残らない、といった話を耳にする機会は多いでしょう。フリーランスとして働く以上一定の社会保険料はかかりますが、経費や控除にすることでトータルの支出を減らせます。そして、節約、節税できる保険料は社会保険料だけではありません。
他にも節約、節税できる保険料があるので、社会保険料を含む保険料の節約、節税について解説します。経費にできる保険料、控除にできる保険料はそれぞれ以下が挙げられます。
【経費にできる保険料】
- 火災保険
- 自動車保険
【控除にできる保険料】
- 社会保険料
- 小規模企業共済
- 生命保険料
- 個人年金保険料
- 介護医療保険料
- 地震保険料
上記以外にもいろいろな保険が増えているため、他にも経費や控除にできる保険はあります。代表的な保険として、上記をそれぞれご紹介します。
経費にできる保険料
火災保険
火災保険とは、住まいが火災の被害に遭った際の損害を補償する保険です。火災から派生して、落雷、爆発なども補償の対象です。保険の種類によっては、さらに派生して水害や盗難も補償の対象に含まれます。
そしてフリーランスが火災保険に加入すると、経費にできるケースがあります。具体的には、事業に関係がある建物に火災保険をかけた場合は保険料を経費にできます。また自宅などに火災保険をかけている場合も、自宅で仕事をしているのであれば一定割合を経費にすることが可能です。
どのくらいの割合を経費にするかは、家事按分という考え方で決まります。家事按分とは、面積や使用時間によってどのくらいの割合を経費にするか決定する方法です。税法上明確なルールが決まっているわけではなく、税務署からしてある程度納得のいく根拠、割合であれば許容される場合が多いでしょう。
また事業とは無関係の建物にかけられた火災保険は経費計上不可です。
自動車保険
自動車保険は、自動車事故によって予期せぬ多額の賠償を求められたときなどに備える保険です。自動車損害賠償責任保険は加入が義務付けられていて、任意保険は任意加入です。これについてはフリーランスとは関係なく、自動車を保有している人であれば把握しているかと思います。
自動車保険も、事業に関係する部分は経費にできます。事業用とプライベート用が同じ車の場合、家事按分の考え方になります。火災保険と自動車保険以外にも経費にできる保険は複数ありますが、考え方としては同じです。
どれだけの割合が事業に関係するかによって、どこまで経費にできるかが変わってきます。そして経費計上の割合に明確なルールはないので、相場から大きくズレない程度の割合にしておくと良いでしょう。相場については各保険料で調べると出てきます。
控除にできる保険料
社会保険料
社会保険料は上で説明してきた、国民健康保険や国民年金のことです。少なくとも、加入が義務付けられている、国民健康保険、国民年金、介護保険は控除対象になります。他にも、年金制度の2階部分の国民年金基金など年金に関わる社会保険料は控除対象です。詳しくは国税庁のサイトを確認すると良いでしょう。
社会保険料は全額控除になるので、控除をきちんと適用するかどうかで所得税が大幅に変わる可能性があります。確定申告書類の詳しい書き方や控除証明書についてここでは割愛しますが、対象の方は確定申告前にはぜひやり方を調べてみてください。
証明書の添付が必要な項目もあれば、通帳などの支払額がわかれば良い項目もあります。
小規模企業共済
小規模企業共済は、小規模企業の経営者や役員が廃業や退職のために積み立てる保険です。そしてフリーランスも小規模企業共済に加入できます。小規模企業共済も全額が所得控除の対象です。
掛け捨てや元本割れのリスクも考慮して小規模企業共済の加入を検討することになりますが、その際に所得控除の観点も含めてシミュレーションなどご検討ください。
生命保険料
フリーランスが生命保険に加入している場合、生命保険料も控除の対象です。生命保険料の控除金額は、契約年度と支払い金額によって以下のように変動します。
年間の支払い保険料 | 控除額 |
新契約(平成24年1月1日以降に契約)の場合 | |
20,000円以下 | 支払保険料等の全額 |
20,000円超 40,000円以下 | 支払保険料等×1/2+10,000円 |
40,000円超 80,000円以下 | 支払保険料等×1/4+20,000円 |
80,000円超 | 一律40,000円 |
旧契約(平成23年12月31日以前に契約)の場合 | |
25,000円以下 | 25,000円以下 |
25,000円超 50,000円以下 | 25,000円超 50,000円以下 |
50,000円超 100,000円以下 | 50,000円超 100,000円以下 |
100,000円超 | 100,000円超 |
生命保険料の控除は上記の計算式ですが、会計ソフトを導入していれば自動で計算されます。計算を間違えて確定申告すると税務署から指摘される可能性があるので、会計ソフトを導入するとより正確に控除できます。
個人年金保険料
個人年金は、公的年金とは別に自身で加入する保険です。フリーランスも加入できます。個人年金の中でも受取期間によって、確定年金、有期年金、終身年金に分けられます。いずれの場合も、同様に控除の対象です。控除額は生命保険料のように金額ごとに計算されます。
介護医療保険料
介護医療保険料とは、介護や医療を受けてかかった費用のことです。医療保険と介護保険に分けられます。医療保険の支払いは国民健康保険などの保険料に含まれています。40歳以上の場合は介護保険料も自動的に支払われています。
そのため、介護医療保険料として確定申告書類に記載するのは、保険料として支払っている社会保険料ではなく、医療や介護を受けてかかったお金です。混同されることがあるのでご注意ください。
介護医療保険料の控除額は生命保険料の新制度と同じで、以下の計算です。
年間の支払い保険料 | 控除額 |
新契約(平成24年1月1日以降に契約)の場合 | |
20,000円以下 | 支払保険料等の全額 |
20,000円超 40,000円以下 | 支払保険料等×1/2+10,000円 |
40,000円超 80,000円以下 | 支払保険料等×1/4+20,000円 |
80,000円超 | 一律40,000円 |
地震保険料
地震保険は、地震や噴火で家が倒壊、火災被害などに遭った際に被害度合いに基づいて保険金が支払われる制度です。地震保険に加入している場合、地震保険料は控除の対象になります。また火災保険と同様、地震保険の対象になっている建物が事業用かプライベート用かによって控除できるかが変わってきます。
事業用とプライベート用の両方で使用している場合、火災保険と同じで家事按分で控除額を決定します。所得税の控除額は、地震保険料の金額によって異なります。具体的には以下です。
50,000円以下の場合 | 全額 |
50,000円を超えている場合 | 一律50,000円 |
まとめ
フリーランスに加入義務のある保険料は国民健康保険と国民年金保険、40歳以上の場合は介護保険も自動的に加入されます。また国民健康保険は会社員時代の健康保険を継続することで、加入しない場合もあります。
フリーランスが保険料を節約、節税するためには、以下が重要です。
- 加入義務のある社会保険、任意で自分が加入したい保険を把握、決定する
- 経費にできる保険料を把握する
- 控除にできる保険料を把握する
上記を押さえておけば、知らない間に損をすることはないでしょう。もちろん確定申告の際には正しい確定申告書類と証明書類を用意する必要があるので、用意するものや書き方も把握していく必要があります。
計算方法などの詳細は、会計ソフトがあれば自動で計算してくれます。また確定申告書類も会計ソフトで半自動的に作成できます。そのため、自分で把握しておくべきポイントと会計ソフトに任せるポイントに慣れていくことも重要でしょう。