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SIerにおけるPMの役割
SIerにおけるPMの役割は、PMBOK(Project Management Body of Knowledge)のプロセスに沿ってプロジェクトを管理することです。PMBOKとは、プロジェクトマネジメントに関する手法やノウハウを体系的にまとめた方法です。PMBOKでは従来のQCD管理(Quality:品質、Cost:原価、Delivery:納期)中心の考え方ではなく、プロセスとしてスコープ、リスク、要員、調達、コミュニケーション、ステークホルダーに加えゴールであるQCD管理があります。SIerのPMでは、プロセスに沿ったプロジェクトを管理を行うことが求められています。
プロジェクトの企画
SIerのPMが行うべき最初の業務としては、プロジェクトの企画です。プロジェクトの企画では、クライアントからのヒアリングとして要件定義から行います。要件定義では、クライアントの要望とする機能や規格、性能、セキュリティ面なども考慮した設計を行います。要件定義では、後戻りで工数を使わないように詳細に細分化して定義していきます。
見積工数の策定
要件定義前後で、工数を算出します。ここで示している工数は、人数・システム開発・テストなどが含まれます。要件定義段階で正確に工数を見積もることは困難ですが、ある程度経験と知識があれば、細分化した際に見積もる工数を設定することが可能です。
スケジュールと品質の管理
要件定義から設計開発、テストまでの進捗状況の管理や品質の担保を行います。進捗状況はEVM法を用いて予実の差を把握することが多く、必要に応じて人員の補充はスケジュールの調整などを行い予実が乖離しないようにします。品質では資料の作成粒度などをクライアントと調整するほか、テスト時のバグの発生具合をもとに求められている品質を満たしているかを確認します。
大規模なプロジェクトとなると、進捗状況や品質を正確に把握する方法が課題となります。
リスクマネジメント
リスクを正確に把握して対応方針を立てたり、予防策を講じたりします。リスクとは現時点では発生していないが、発生する可能性がある課題のことを指します。PMはプロジェクトの各チームの状況を確認し、リスクを可能な限り洗い出します。その後、リスクの発生確率や優先度、影響範囲、リカバリーにかか る工数などを把握し、対応方針をクライアントと調整します。
プロジェクト完了報告
実際のプロジェクトが終わったら完了報告を行うのもPMの役割です。完了報告会では区切りをつけて、メンバーを徐々に解散していく旨を伝えるという意味合いもあるが、成功体験や反省点の共有という意味でも非常に重要な場です。PMは今回のプロジェクトで得られた体験を社内全体に共有するために、成功ポイントや課題となった事象、反省点などを具体的にまとめることが求められます。
SIerにおけるPMの仕事内容
PMの役割とはPMBOKのプロセスに沿ってプロジェクトを管理することでした。では、実際にどのようにプロジェクトを管理してくと良いのでしょうか。ここではPMの仕事内容をプロジェクトの各フェーズに分けてご紹介いたします。
要件定義・設計
PMが行う代表的な仕事内容は以下の3つが挙げられます。
- プロジェクトの立ち上げ
- クライアントへの提示文書のフォーマット展開、納品文書の記載粒度の合意
- 関係各所とのコミュニケーションのリード
プロジェクトの立ち上げ
クライアントへの提案資料をもとに大まかなスケジュールやWBS、体制図などを作成し、クライアントと合意します。また、自社メンバーとクライアントの主要関係者を集めてキックオフ会を行います。
クライアントへの提示文書のフォーマット展開、納品文書の記載粒度の合意
各種文書のフォーマットや各フェーズで求められる成果物の粒度をクライアントと合意をし、自社メンバーに展開をします。
関係各所とのコミュニケーションのリード
最初の方はクライアントとの関係性も構築できていないメンバーが多いため、PMが主体となってコミュニケーションを取ります。しばらくしたら、各チームの代表者にコミュニケーションのリードを渡すことが多いです。
また、上記以外にもすべてのフェーズにおいて進捗管理や課題・リスク管理が求められます。
構築・テスト
この期間で最も重要な作業としてはリスク管理・課題管理です。他のメンバーは忙しいことが多いため情報が上がってこないことも多くあります。そのため、PM側から主体的に情報を取得し、リスク・課題の整理を行います。優先順位・影響範囲・優先度・対応方針の素案を取りまとめたら、クライアントと調整を行い、対応方針を決めていきます。
また、進捗管理も入念に行い、スケジュールの遅延が発生した場合にはリカバリー方針を策定の上、クライアントへ報告します。
移行
移行時の主な作業は大きく以下の2つが挙げられます。
移行作業に向けた調整
移行作業では自社メンバーだけでなく、クライアントの他のシステムを一時的に止めたり、データの洗い替えをしたりする必要があります。このような他システムとの調整を行うのがPMのタスクです。
ただし、大きなプロジェクトではこのフェーズで移行チームを結成し、調整を移行チームに任せるケースもあります。
移行時の課題発生におけるクライアントコミュニケーション
実際の移行がスムーズにいくとは限りません。そのため、PMは本番移行期間中は常に待機をし、移行作業に問題が発生した時点でクライアントに影響の可否や対応策を報告します。
運用
運用初期段階ではプロジェクトを完了させ、運用の体系構築に向けて動いていきます。その中でのPMの仕事内容は以下の通りです。
プロジェクトの完了報告
クライアントおよび自社メンバーに対してプロジェクトが無事に終わったことの完了報告を行います。自社の完了報告の中では、反省点や成功ポイントを明確化し、自社のナレッジとすることが重要です。
障害対応の管理
システムの導入直後は障害が多発するため、PMが主体となって状況の確認を行います。大きな障害が発生した場合にはクライアントへの報告も行います。
メンバーのリソース・作業管理
運用が始まると工数管理をより厳密に行わないといけません。そのため、リソースの管理や作業管理をPMが主体となって行います。また、安定化までの期間の運用メンバーの削減プランの策定も行います。
SIerのPMのキャリアパス
PMになった後のキャリアパスはさまざまです。ここでは主なキャリアパスとして5つのケースを紹介いたします。
上流SlerのPM
より上流のSIerのPMに転職するケースもあります。上流になることで検討する範囲が増え、より多くのシステムの知識やマネジメントスキルが求められます。また、クライアントのシステムの全体像を考え、将来のシステム構成を考えることも必要になってきます。一段上の経験やスキルが身に着けられるようになると考えてよいでしょう。
現職のPM
現職のPMを引き続き続けていくことも可能です。長く勤めることでより多くのことを経験でき、自身の社内価値も上がっていきます。ゆくゆくはCIOや事業部長といった自社のIT戦略の要人としてのポジションも見えてくるでしょう。
自社開発のPM
自社でシステムの開発を行っている場合には、その自社開発部署のPMになる道もあります。これまでの多数の導入実績を評価され、自社の製品開発のPMを任されることは少なくありません。その場合には、これまでの経験から得られたマネジメントスキルや知見からよりよい自社製品をよりよいコストパフォーマンスで開発することを求められます。
フリーランス
フリーランスとして活躍する道もあります。フリーランスというとプロジェクトの一メンバーとして参画するケースが多いですが、フリーランスPMというポジションもあります。フリーランスになることで、自分の理想に合った案件を担当できるチャンスが増えるとともに、大幅な年収アップや自由度が高く働けることも期待できます。
しかし、フリーランスでは完全に実力で見られることになるため、十分なプロジェクト経験や豊富な知見を備えていないとクライアントからの信頼を失い、案件を獲得できなくなってしまいます。自身のこれまでの経験を振り返り、確実に実力をつけてからフリーランスになるようにしましょう。
起業
最後に起業する道をご紹介します。PMと経営者というのは以下の通り、求められるスキルがよく似ています。
立ち上げフェーズ
経営者:ニーズや顧客を見極める力や会社を立ち上げるマネジメントスキルが求められます。
PM:顧客の要望を見極める力やプロジェクトを立ち上げるマネジメントスキルが求められます。
拡大フェーズ
経営者:規模が多くなるにつれてより組織で運用が回るような体制作りが求められる
PM:プロジェクトメンバーが増えるにつれ、属人化せずに情報を拾い上げる体制作りが求められる
安定化フェーズ
経営者:安定して利益を出すスキルや新たなニーズを探し出すための営業力が求められます。
PM:安定した運用体制を提供し、定常的に利益が出る体制を構築するスキルや新たな要件を獲得するヒアリング力が求められます。
そのため、PMから起業するという道も十分考えられると言えるでしょう。
SIerの現状
SIerは企業のシステム開発を全般的に請け負い、自社内のシステムを構築するのが一般的でした。しかし近年、オンプレミス環境からクラウド環境に移行されてきたことでシステムを構築するのではなく、既存のシステムを構築するのが主流になってきました。また大手SIer業界は、多重下請け構造やIT人材不足、PM不足などが課題に挙げられています。
急激なITの普及
新型コロナウイルスの影響で、リモートワークや在宅勤務など働き方の見直しが進む昨今、企業はIT人材不足に日々頭を抱えています。
経済産業省が公表している情報によると、SEなどIT人材の不足が2030年までに最大79万人以上の規模に達すると予測しています(※1)。IT人材が不足する背景として、少子高齢化による日本の労働人口(15歳以上の働く能力がある人)の減少が挙げられます。急激なITの普及によりSEやSIerなどが不足しています。
(参考:経済産業省:「IT人材の最新動向と将来推計に関する調査結果」)
不足するPM人材
SIer業界以外にもPM人材が不足しています。PMを担当することができる人材は、SIerやSEの経験が十分にあり、PMの前であるPMO経験や中規模から大規模案件の経験が必要になります。急激なITの普及により、PMとして育つ前に辞めてしまう人やPM側も試行錯誤で進めていくような時代になってきました。
不足する人材を補うには
最初に述べたようにPM人材は不足傾向にあります。これは企業にとっては自社の成長を阻害する要因となるため非常に大きな問題と言えます。PMスキルがある人材を外部から採用するといった手も考えられますが、長期的に課題を解決するためにはPMに向いている社内人材を積極的に登用させたり、PMスキルの社内教育を継続的に行ったり、研修体制を変更したりと自社で人材を育てていくことが重要になると言えるでしょう。
まとめ
今回の記事では、SIer企業のPMの役割について解説しました。コンサルティング案件などを探している方、事例を知りたい方は、ぜひfoRProまでご相談ください。