物流DXとは?
そもそもDXとは「デジタルトランスフォーメーション(Digital Transformation)」の略であり、企業がビジネス環境の変化に対応するために、データやデジタル技術を活用し、製品・サービス・ビジネスモデルや業務そのものを変革し、競争上の優位性を確立することです。
物流DXは、物流業界におけるDXを実現しようとする取り組みですが、国土交通省「総合物流施策大綱(2021年度~2025年度)」によれば、単なるデジタル化・機械化ではなく、オペレーション改善や働き方改革をも実現し、物流産業のビジネスモデルそのものを革新させることで、これまでの物流のあり方を変革することを「物流DX」と定義しています。
日本の物流業界の現状
物流は、膨大な量の物資を必要な場所に、必要とされるタイミングで輸送されることで維持されており、輸送・荷役といったいわゆる「物流」として想起されやすい業務だけでなく、物流倉庫等での保管や包装・流通加工のプロセスも物流の機能として挙げられ、まさに日本人の国民生活や経済活動を支える重要な社会インフラとなっています。
物流業界の営業収入は2017年度には約24兆円、また2018年度における物流業界の労働就業者は約258万人と、全産業の就業者数の約4%を占めており、物流業界は日本経済に大きな影響を与える業界となっています。
(参考:国土交通省「物流を取り巻く動向について(令和2年7月)」)
物流業界の抱える課題
人口減少や社会経済の不確実性の拡大、災害・感染症の発生など、社会環境の大きな変化が発生し物流業界においても様々な課題が生じています。
ここでは代表的な課題として3点ご紹介します。
小口配送に伴う業務の非効率化
新型コロナウイルス感染症の拡大により自宅で過ごす時間が増えたことで、インターネットショッピング・フリマアプリ等に代表されるEC(Eコマース)が広がりを見せています。
経済産業省「2021年度電子商取引に関する市場調査結果」によれば、コロナ禍前の2019年には物販系ECの市場規模は10兆円であったのが、2021年には13兆円と約1.3倍に増加しています。
ECの利用者数増加により、個人宅への小口配送が増加していますが、小口配送は法人や店舗への配送(大口配送)と比べると多くの人手を必要とし、業務が非効率になってしまいがちです。結果としてドライバー1人1人の負担が増加し、労働環境悪化や人手不足に拍車をかけています。
労働力の不足
厚生労働省によれば、トラックドライバーの有効求人倍率は全職業平均より2倍以上高く、またトラックドライバーの平均年齢は全産業平均より3〜6歳高いという結果が出ています。ドライバー不足が顕在化しているだけでなく、高齢化が進むことで、ドライバー不足はさらに深刻化していくことが予想されています。
さらに、2024年4月に施行される予定の働き方改革関連法では、時間外労働時間の上限が960時間に制限されるため、今まで貰えていた時間外手当が貰えずドライバーの収入減少に繋がり、離職増加・新規就業人材の減少といったさらなる人材不足が懸念されています。
(参考:統計からみるトラック運転者の仕事)
低賃金・長時間労働による従業員への負担増加
大型トラックドライバーの労働時間は全産業平均に比べ+20%、一方で年間所得金額は-7%と低賃金・長時間労働が常態化しています。
ECの拡大により小口荷物の増加だけでなく、「翌日配送」等を打ち出すEC企業も増え、低賃金で質の高いサービスが求められており、従業員の負担は増える一方となっています。
物流DXの目指すべき姿
物流業界においては、大量の配送ニーズに対して、業務手順の変更を行ったり荷物の配達方法の工夫をしたり等、アナログな方法を中心に、業務改善によって対応をしてきました。
しかし、上述した労働力不足等により、年々増加する荷物や複雑化している配送ニーズに十分な対応ができなくなってきています。
そこで、勘や経験をベースとした工夫・アナログな業務改善だけでなく、物流業務をデジタル化し、現場の状況をデータで可視化することで、現場の状況変化や変化に対する取り組みを即時に行える環境を作ることが急務になっており、物流DXの必要性が大きくなっています。
物流DXとして目指すべき姿として、3つのポイントをご紹介します。
データ入力が不要な現場状況の取得
物流DXを行う上では、まず物流網全体の状況の把握が必要です。物流網全体の状況を可視化するためには、大量のデータ入力が必須ですが、ドライバーがスマートフォンや情報端末を使って手動で入力をしていたり、紙の書類でやりとりしているケースも散見されます。
アナログなインプットでは作業量が膨大になるだけでなく、データ取得の頻度や正確性にも限界が生じてしまいます。
例えばIRFID(ICチップ、ICタグ)などを活用することでセンサーによる複数商品の同時読み取りもできるようになる等、近年急発達しているIoT技術を活用することで、データ入力作業を不要としつつ、荷物や倉庫などの稼働状況をデジタルデータとして取得できる仕組みを整えることが可能になります。
リアルタイムでの状況可視化
各拠点でデータを集めても、その拠点でしか閲覧できなかったり、業務に活用できないケースが散見されます。各拠点で取得したデータを統合処理することで、全拠点の複数プロセスを横断的に可視化できるようになり、自社の物流の流れ全体を把握することが可能になります。
例えば、物流プロセスに遅れが生じた時に、どの部分がボトルネックか即時に把握したり、後続のプロセス(拠点での作業等)にどの程度の影響が生じるかを事前に把握することが可能になります。
状況変化への柔軟な対応
トラックドライバーが1日の業務終了後に「日報」として報告するケースでは、日報の提出をもって初めて現場の状況や実態が把握できるため、どうしても実績の管理に終始してしまいます。
各現場のデータを統合して処理し可視化することで、リアルタイムの状況変化をデータとして把握することが可能になり、勘や経験に頼っていた将来予測や計画修正等にも活用することができます。
物流DXを進める上での課題
物流DXを推進し、データ入力にかかる業務について可能な限りインプット不要として現場の負担を減らしながら、リアルタイムで状況を可視化し状況変化に対して柔軟に対応できる仕組みを構築していくことが重要であるとご説明しました。
一方、こうした物流DXの取り組みを進めていく中でも様々な課題に直面します。
代表的な課題として、2つのポイントをご紹介します。
拠点ごとに最適化されている業務の統一化
物流業務は、一般的に複数拠点での作業および拠点間の輸送業務で成り立ちます。
しかし、拠点ごとにデータが取得・集計され業務が最適化・改善されているケースが多く、また紙ベースのアナログの指示書が活用されていたり等、現場によって作業標準が異なりデータ取得方法等に影響を与えかねません。
拠点間の違いを残したままでDX化・システム導入を進めようとすると、各拠点でデータを取得する必要が出てしまい、導入時のみならず実際の運用時にも手間が発生したり、取得できるデータが拠点ごとに異なるため全社横断的なデータ活用が阻害されてしまう可能性があります。
デジタル化不要でも成り立っている現場への浸透
物流は、リアルな「モノ」を輸送し、管理することがメイン業務であるため、デジタル業務がなくとも業務が成立してしまいます。そのため、例えば現場のトラックドライバーの方に、デジタル化やデジタル技術導入の意義・必要性を感じ、理解してもらうことは容易ではありません。
例えば、配送ルートをAIが提案するシステム等を導入したとしても、ドライバーが培った経験と勘に拠るところが大きく理解してもらえなかったり、あるいはドライバーの高齢化の影響により、デジタル技術導入に向けたトレーニングに大きなコストがかかることも懸念されています。
物流DXの具体的な進め方
上記の課題を踏まえて、物流DXをどのように進めていけばよいでしょうか。
ここでは大きく3つのステップに則ってお伝えします。
(1)業務プロセスに各拠点の工夫を残しつつ、取得データの標準化
上述の通り、実際の物流現場においては各拠点個別最適で様々な工夫が行われ、拠点の独自性が高いケースも多くありますが、特に「取得するデータ(何をデータとして取るべきか)」とその取得方法(どのようにデータを取るか)」を標準化することが必要不可欠です。
一方、現場で現在利用されている紙ベースの指示書はオペレーションとして残すなど、現場のノウハウ・工夫を最大限活用しながら進めていくことが望ましいでしょう。
(2)物流DXの目的に合致した技術選定と業務適合性の確認
フォークリフトの無人自動運転化による倉庫内作業の自動化技術やトラックの配送ルートの最適化技術など、いわゆる「スマートロジスティクス」と呼ばれる新たな技術が多数登場しています。
しかし、物流DXの文脈において「技術の導入」自体が目的になってしまうと、スムーズに導入できなかったり導入自体が頓挫するケースが想定されます。
新たな技術を導入する上でも、導入時の自社業務への適合性を確認しながら進めていくことが理想的です。
(3)現場への理解・協力を仰ぐ
上述の通り、トラックドライバーなど現場で働くスタッフの理解を得ながら物流DXを推進することは、重要かつ難易度の高い取り組みです。
まずは物流DXの取り組みのメリットを現場スタッフに丁寧に説明し、デジタル化の意義や取り組み全体の意義を理解してもらうことが必要です。
また、現場の方々がすぐに効果を実感できるような取り組みから優先して行うなど、現場の方々が物流DXの取り組みに対してモチベーション高く関わっていただける進め方の工夫なども必要になってくるでしょう。
物流DXの事例
ヤマトホールディングスの事例
「クロネコヤマト」でお馴染みのヤマト運輸を傘下に持つヤマトホールディングスでは、
EC事業者と協力して「EAZY」という個人向け宅配サービスを提供しています。
ヤマト運輸と連携しているECサイトにおいて顧客が注文をすると、顧客は受取方法として対面だけでなく自宅ドア前の「置き配」や宅配ボックスへの投函など、様々な方法を選択することができます。また、受取方法は荷物を受け取る直前までスマートフォンで変更することができます。
顧客にとって受け取りやすい方法を柔軟に指定することで顧客満足度を高めることができるとともに、配送を担うドライバーにとっても、確実に荷物を届けることができ再配達等の非効率な業務を減らすことが期待できます。
(参考:【物流業】DX推進事例5選)
まとめ
今回の記事では、物流DXに向けた課題について解説しました。コンサルティング案件などを探している方、事例を知りたい方は、ぜひfoRProまでご相談ください。