日本の農業では、デジタル化の導入を促進する「農業DX構想」に注目が集まっています。しかし、アナログで経営を行う農業経営者も多く、DXとは何なのか、どのように導入すればいいのか分からないと悩んでいる方も少なくないでしょう。そこで、農業におけるDXとは何なのか、その活用方法や、構想の方向性や現場の課題などについて解説します。
目次
農業におけるDXとは
従来の仕事のノウハウをデジタル化するデジタルトランスフォーメーションをDXと呼称し、農業では農林水産省が推し進めている「農業DX構想」を元にした動きが期待されています。つまり、農業におけるDXとはデジタル技術を農業に導入することで、業務を効率化すると同時に、多様化する消費者ニーズの提供が目的です。農業とデジタルは、一見関係のない分野に思えますが、デジタル化で効率的に行える作業は少なくありません。たとえば、ロボットを導入し収穫を自動化したり、集荷情報のやり取りをPCやスマートフォンで管理できるようにしたりするのもDXです。
農業DXの定義
農業にデジタル技術を活用し、効率化を進めデータ化した消費者ニーズを捉えることが農業DXの目的です。そこから、消費者が新しい価値を実感できる食品や農産物を提供する、FaaS(FarmingasaService)の実現を目指します。デジタル技術を使用して、農業者や農業団体、小売、卸、物流、外食産業などの農業が関わる課題を解決する目的こそが農業DXの本質です。
農業分野でのDXの必要性
日本の農業では、労働力不足や高齢化が進んでいるため、何も対策を取らなければ、食糧の安定供給ができなくなってしまいます。そのような事態を避けるために、DXを導入し、業務にかかる負担を減少させ、食物が消費者に購入してもらえる環境を作る必要があります。また、農業をデジタルで管理できるようになれば必要な人材も少なくなるので、少人数での経営がしやすくなるのも強みといえるでしょう。
農林水産業が発表した「農業DX構想」とは
2021年の3月に農林水産業によって発表された、農業の変革をデジタル技術によってもたらそうとする働きです。DXはもともと、行政手続きやビジネスをデジタル化で変革をおこす概念だとされています。
その概念を農業に当てはめ、農業DXは農業から食品関連、産業分野におけるさまざまな問題を解決するひとつの手段として、構想が生まれました。
(参考:農業DX構想の概要については)
農業DX構想の方向性
農業 DX 構想では以下6つの基本的方向が発表されています。
- 政府方針に基づく農業DXの推進
- デジタル技術の活用を前提とした発想
- 新たなつながりの形成によるイノベーションの促進
- 消費者・利用者目線の徹底
- コロナ禍による社会の変容への対応
- 持続可能な農業の実現によるSDGsの達成への貢献
(参考:農業DX構想 ~「農業✕デジタル」 食と富の未来を切り開く~)
日本の農業を守るためには、方向性を見失わず、デジタル化によって持続し続けられる農業の実現が求められています。
日本の農業DXの現状
農林水産業によって農業DXが推奨されていますが、経営情報や栽培は人の手によって管理・処理されているケースの方が多くあります。また、サービスの質や内容を把握し切れていないのが現状です。
機材の購入や、農産物の出荷先を選択できるサービスもありますが、個々のサービス普及と、デジタル化をサポートする事業体が増えなければなりません。
農業DXの実現に向けた取組課題
続いて、農業DXを実現するためにどのような取り組みや課題があるのか、5つの現場や作業ごとにわけて紹介します。日本の農業を持続するためには避けて通ることができないでしょう。
農村地域
農業地域では、農作物が消費者の手に渡るまでのバリューチェーンをモデル化したり、基盤そのものを整備したりする必要があります。個々でデジタル化を進めるにも、新しい技術を取り入れていくのは簡単なものではありません。
そのため、農業地域単位で基盤を作り、共有するのが大切です。現状では、農業DXの取り組みは限定されたグループでしか行われていないため、まずは技術を活用する仕組みづくりが必要になります。
生産現場
生産現場では、農業機械やドローンなどを遠隔操作する実証実験が行われていますが、試験的な導入で止まっているのがほとんどです。そのため、多くの現場で実際に使用できる方法の構築が欠かせません。
これからは、いかに官民が協力してデジタル技術を活用していけるかが、農業全体の方向性に影響を及ぼすでしょう。また、土壌評価や画像解析、センサーを使ったデータ収集の精度が上がれば、導入数も増えていくでしょう。
消費・流通
農産物流通DXとも呼ばれる、消費と流通におけるDXでは農作物の管理を一元化する仕組みを作る必要があります。実際に、ブロックチェーンやトレーサビリティの確保を用いた管理方法が実施され始めているのが現状です。
さらに、インターネットを介して、消費者と生産者が関われる現代だからこそ、販売情報を正確に捉え、需要に応える生産と販売をしなければなりません。取り組みとしてはJANコードを利用して、個別輸送を円滑にする工夫がされているので、農業全体に浸透させることが求められています。
食品製造業
食品製造業の分野では、グローバル競争の中で、顧客ニーズが多様化したため、品質の向上が重要です。しかし、労働人口の減少もあるため、LotやAIなどを取り入れた、食品DXが推進されています。
人の手だけでは集めきれない消費者行動や、顧客情報などを分析し、新しいものづくりや販売方法に対応していかなければなりません。
行政事務
DXを推し進めるべき行政事務においても、アナログ方式の業務による効率性が問題視されています。業務効率が悪い状態でサポートしようとしても、進行が遅くなったり、不十分になってしまったりするだけです。
そこで、業務の効率化が行われれば、経費削減や効率化が進み、サービスやサポートの質を向上させられるでしょう。
農業DXで実現したいこと
農業DXで、どのようなことを実現したいのか大きく3つにわけて紹介します。DXの導入は今後の食糧問題や、農業の人手不足解消にもつながるので、目的を正しく認識しておく必要があります。
1,データ駆動型農業
データ駆動型農業とは、農業に関連するデータを最大限活用し、連携から共有、提供までデジタル技術を導入する新しい形です。国自体も新しい農業を実現するために、スマート農業の実践に力を入れています。
今はまだ、完璧な仕組みは作られていませんが、実験を重ねデータが蓄積されていけば、農業とデジタルを組み合わせた効率的な産業となるでしょう。
2,農水省の行政DX
農水省が目指すDXは、FaaSの実現を目的にしています。データ駆動型農業も含め、さまざまな需要に応えられる価値を創り出し、消費者への提供を可能にする農業の実現が行政の考えるゴールです。
また、農業に関わる方々の負担を和らげ、生産や販売がしやすい環境を作るのも、行政DXが持つ役割といえるでしょう。
3,現場との行政の連携
現場と行政の連携を密にするのも大きな目的です。農業のデジタル化が進めば、生産量や売上、コストなどの情報が集まりやすくなるため、課題や改善点を素早く見つけられます。
また、行政がどのような対策をとればいいのかデータを見ながら分析できるため、現場へのサポートや指示がスムーズに行えるのも強みになるでしょう。
農業DXの事例
農業DXが実際にどのように使われているのか、3つの事例を紹介します。農業全体にDXの仕組みが広まれば、日本が抱える農業の課題解決に一歩近づくでしょう。
1,超低コスト生産の実現
茨城県にある米農家では、約150ヘクタールに及ぶ米の生産を、全国平均の半分に近いコストで実現するのに成功しています。具体的な、デジタルの運用は以下の作業に取り入れられています。
- スマートフォンで遠隔操作ができる「自動給水システム」
- 稲の成長や天候を可視化し、効率化や管理するための「圃場(ほじょう)管理システム」
- 田植えや収穫時期を分けて管理するシステム
- 1台体制作業を徹底した「自動運転トラクター・自動運転田植え機」
これらを導入することで、稲作の作業を簡略化し、少人数体制でも問題なく米を作り出せる環境が整えられました。
2,直販の仕組み
とある企業では、産物や水産物、農作物などを直販できるWebシステムを作り、消費者と生産者がつながれるようにしました。このシステムを導入すると、通常販売で約3割の収入を得ていたのが、販売価格を自由に設定できると同時に、8割の利益をあげる事が可能です。
また、プラットフォームは、法人向けと個人向けが用意されているため、販売者の状況に合わせた利用が可能です。
3,農業の経営分析
3つ目の事例は、自治体や農業経営者に向けた営農支援と、経営分析が可能なクラウドサービスを提供する企業のケースを紹介します。企業がクラウドサービスで行えるようにしたシステムは、以下の3つです。
- 環境や気象データなどを自動で収集し連動させる「データベース構築」
- 処理したデータを戦略的に活用できるようにする「インプット」
- 分析した結果を可視化する「アウトプット」
これらのシステムに加え、農業経営者とコミュニケーションがとれる機能を搭載し、データを活用する際のサポートやアドバイスをしています。
農業DXを推進するポイント
農業DXが農水省から推進されている理由となる、3つのポイントをそれぞれ解説します。販路拡大や安定した農作物の提供にも役立つため、農業関係者であれば知っておきたい情報です。
1,データの利活用
農業DXでは、以下4つのデータを活用した制作や販売ができます。
- 日照時間や平均気温の参考になる「気象データ」
- 肥料、農薬に関する適用作物や適用量をまとめる「資材データ」
- 試験研究機関栽培方法や品種特性などの情報をまとめる「品種、栽培データ」
- 各地の卸市場や企業情報が蓄積された「市況データ」
これらのデータを活用すれば、地域ごとで異なる環境や市場に合わせて、適切な農作物を制作し、販売できます。
2,UI/UXの活用
UI/UXが活用できるのも、農業DXならではの特徴です。UIはユーザーインターフェースを意味し、ユーザーが使いやすいプロダクトやサービスの外観を指します。UIを導入することで、ユーザーの興味を引くサービスやプロダクトを作成できます。UXはユーザーエクスペリエンスの略で、ユーザーに与えるより良い体験を意味します。UXでは、ユーザーデータを基にしたイベントの企画が可能です。
3,農業以外の分野と連携
DXでは垣根の無いビジネスが展開できるので、食品関連産業や農業とは異なる分野との連帯も簡単です。たとえば、スポーツ関係の企業との連携であれば、免疫力や体力アップを助ける農作物をPRできます。新しいイノベーションが注目を集めれば、異なる分野から新規顧客を発掘できるようになるでしょう。
まとめ
今回の記事では、農業におけるDXの活用法について解説しました。コンサルティング案件などを探している方、事例を知りたい方は、ぜひfoRProまでご相談ください。