新規事業の立ち上げは、企業の成長戦略のために行われることが多く、企業側も失敗が許されるものではありません。そのため新規事業の立ち上げについてリスクやプロセス・フレームワークを理解しておくことは重要になります。
この記事では、新規事業の立ち上げに必要な2つの視点や重要なフレームワークを紹介していきます。
目次
新規事業を立ち上げる際の2つの視点
新規事業を始めようとする際には、「市場性」と「事業性」の見極めが重要になります。市場性と事業性の視野から新規事業を立ち上げることによって、自社の製品やサービスの強みがどこにあるのか、競合と比較して利益を獲得できるのか判断することができます。
市場性
市場性では、どれくらいの需要やお金の動きがあるのかを指します。消費者のニーズを考えてどのような商品やサービスを消費者は望んでいるのかなど、市場の成長や将来性などを見極めることで戦略を練ることができます。
事業性
消費者や顧客の抱えている課題や悩みを解決することのできる商品やサービスをどのような人であれば、購入するのか分析するのが事業性になります。
ターゲット層の特徴や求めているモノの分析、事業に参入している競合他社との比較など事業性があるのか見極めることが必要です。
新規事業を立ち上げる2つの方法
企業が新規事業を立ち上げる場合には、以下の2つが考えられます。
- 自社で0から作り上げる
- M&Aで参入する
自社で0から作り上げる
新規事業の立ち上げ方法として、新しい市場を作る方法となります。
事例をあげると、日産自動車は2010年に電気自動車リーフを量産型で発売しました。量産型の電気自動車市場は他の電気自動車にはない試みでした。日産は、開発用に制作した実験車両でテストを積み重ねた結果、世界初の量産型EV専用モデル「日産リーフ」を発売し、成功しました。
90年にソニーが世界で初めてリチウムイオン電池の開発に成功したということで、日産は自動車への搭載をいち早く検討し、92年にソニーと共同開発を始めました。その当時はハイブリット車にはニッケル水素電池が使われていましたが、リチウムイオン電池の採用を決断したことが日産のEV開発を大きくしたといわれています。共同開発から約18年がかりで量産型EVモデルを開発しているため、0からのスタートはとても手間やコストはとてもかかります。しかし、一方で開発に携わった方の喜びは計り知れません。
(参考:Vol.1「日産アリア」へとつながる、日産EV開発の歴史)
M&Aで参入する
M&A(Mergers and Acquisitions)とは、日本語に訳すと合併と買収という意味になります。M&Aにおける合併とは、2つ以上の企業を1つの企業に統合する手法のことで、買収は、1つの企業の経営権を買い取ったり、企業の一部の事業を買い取るといった手法を指します。M&Aによって新規事業の立ち上げを行うメリットは、相手先企業の持つ資金や人材、ノウハウを吸収して、自社の事業を強化したり、弱みを補填できるところにあります。M&Aで成功した事例では、日本郵政と楽天の資本業務提携があります。楽天と日本郵政がM&Aを実施した目的は、DXや物流などにおける業務提携です。日本郵政が持つ物流と楽天のもつ物流領域における受注データの相互活用によって、互いの強みを活かすことができ成功に繋がりました。
(参考:日本郵政グループと楽天グループ、資本・業務提携に合意)
新規事業の立ち上げに必要なプロセス
新規事業の立ち上げでは計画を立てずに新規事業を行うと、途中で停滞・失敗してしまう可能性があります。新規事業の立ち上げに必要なプロセスは次の6つが挙げられます。
- 解決したい「課題」の特定
- 事業ドメインの選定
- ミッション、ビジョン、バリュー(MVV)を明確にする
- 市場を調査する
- 行動計画を策定する
- 実行する
解決したい「課題」の特定
新規事業を立ち上げる際には、プロジェクトチームでアイディアを出し合うという場合も多くあります。しかし、自社が実現したいことを優先してしまう可能性があるため、プロジェクトチームのアイデア出しには注意が必要です。新規事業の立ち上げには、顧客が抱えている課題を特定して課題の解決にはどのような施策を立てることが必要か考えます。課題の特定には、顧客の行動パターンやアンケート調査などから調査することが可能です。
事業ドメインの選定
事業ドメインとは企業が事業を展開する領域のことを指します。
わかりやすく言うと「業界、商品・サービス選び」です。
マーケティング戦略では、自社の魅力を最大限アピールすることのできるドメインを選定することが望ましいでしょう。例えば、「○○専門」のような事業ドメインを選定することによって、自社の特性も分かりやすく伝わりやすいというメリットがあります。
ミッション、ビジョン、バリュー(MVV)を明確化
ミッションとビジョン、バリューの3つを定めることで、組織全体の方向性を明確にできるフレームワークです。3つの要素を固めれば、会社全体で同じ方向を向いて取り組むことができます。この3つを明確にすることにより、自社の方向性に合わない事業を始めてしまうことや軸がぶれる可能性はほとんどなくなります。軸を決めることにより、他社への差別化も図れるため、MVV[を顧客やパートナー企業に向けて発信することにより競合他社にはないバリューをアピールできます。
市場調査
参入しようとする市場の調査と評価を行う必要があります。需要や将来性はどうなのか、競合の他社などの業績などの確認は重要になります。なぜなら大手が競合であったり既にレッドオーシャン状態である場合は価格競争が始まっており十分な利益を得るのは困難と言えるからです。
行動計画の策定
具体的な行動計画を立案するプロセスになります。無理な行動計画を立ててしまうと計画が遂行されない可能性もあるため、実行可能な計画を練りましょう。仮に計画通りに進まない場合にはその都度計画の見直しが必要です。
実行
実行可能な人的リソースや予算を確保したら計画を実行に移します。実行する際には役割を明確にして、プロジェクトを動かす人・プロジェクトを管理する人などを明確にしましょう。近年では最小限のコストで事業を行いながら改善を繰り返す「リーン・スタートアップ」手法が用いられることが増えてきました。リーン・スタートアップ手法とは、無駄をなくすことで、よりコストを抑えて仮説検証を行うことです。価値観が多様化している現代に適した手法になっています。しかしリーン・スタートアップは手法にしかすぎないため、事業に合った方法を見つけることが大切です。
新規事業の立ち上げで成功するポイント
新規事業を立ち上げる際には可能な限りリスクを抑えて、成功に導きたいと考えるはずです。事業の新規立ち上げの際に成功するポイントを解説します。
参入タイミングに遅れない
新規事業の立ち上げはスピード勝負とも言われています。
時間とコストをかけすぎて、競合他社が現れシェアを十分に確保できないまま撤退するというのが最悪なシナリオになります。
計画を立てることも大切ですが、時間をかけすぎるのも良くありません。迅速に展開できる計画で進めていくのがよいでしょう。
事業撤退の基準を定める
必ずしも新規事業が成功するとは限りません。どれくらいまで市場で戦って、どれくらいのタイミングで撤退するのかという指標を先に決めておくことが大切です。撤退のタイミングを先に決めておくことは経営資金を必要以上に失わないためにとても重要なことと言えます。市場の将来性なども含めて、どれくらいまで生き残れるかを細かく分析することが必要です。
需要の予測を立てる
「なぜ新規事業に取り組むのか」、「顧客や社会が抱える課題を解決できるのか」、「今のタイミングなのはどうしてなのか」と問いに答えることができない場合には、計画が煮詰まっていない状況といえます。
参入タイミングのためには、スピード感も大切にはなりますが、需要からはみ出ていないかの確認は大切です。
社外リソースを活用する
知り合いに事業経営者がいる場合には、経営資金や人脈などの手助けを頼めるかもしれません。新規事業の立ち上げプロジェクトメンバーだけで抱え込まず、知り合いなどからの情報などを取り入れながら進めることで新しい気づきにも繋がります。
新規事業の立ち上げに重要なフレームワーク
新規事業の立ち上げに役立つフレームワークを紹介します。フレームワークを上手く活用することによって、新規事業立ち上げがスムーズに行えるようになります。
3C分析
市場性や事業性の判断には、自社や競合他社の分析ができる「3C分析」が役に立ちます。
3C分析は、「顧客のニーズ、市場規模、将来の市場を分析」、「自社の強みや弱みを明確にする」、「競合他社の規模や業績の分析」といった3つの観点から分析します。市場や競合他社を分析したことで、自社の強みを全面的に活かすことができたのが、成功のポイントと言えます。
ポジショニングマップ
新規事業の事業計画書だけではなく、マーケティング企画書などでも必ずといっていいほど見るのがポジショニングマップです。ポジショニングとは、自社製品をターゲットとする顧客に商品やサービスを認識してもらうために、独自のポジションを築くことを指します。
ポジショニングマップとは、縦軸横軸があり、競合他社の商品やサービスがマッピングされていて、自社の商品やサービスがどの軸で差別化できているのかを示すものです。
ポジショニングマップを利用することにより、自社の商品やサービスが競合他社よりも優位性のある独自のポジションを導き出す作業を効果的に行えるというメリットがあります。
ポジショニングマップを利用することで、まだニーズのある有望な市場を見つけ出すことも可能です。
VRIO分析
自社が他社よりも競争優位であることを経営資源の観点から「V:Value(経済的な価値)」、「R:Rareness(希少性)」 、「I:Imitability(模倣可能性)」、「O:Organization(組織)」の頭文字で構成されています。この4つを客観的に評価したものがVRIO分析です。VRIO分析では、顧客などにとっての価値ではなく、その企業にとっての経営資源を戦略に組み込む価値のことです。
まとめ
今回の記事では、「新規事業を成功させるプロセス」について解説しました。コンサルティング案件などを探している方、事例を知りたい方は、ぜひfoRProまでご相談ください。