近年では地球環境や飢餓、貧困などの問題、経済成長やジェンダーなど、さまざまな課題に取り組んでいくことが重要視されています。これらの課題に取り組みながら豊かさも追求し、人々が暮らしやすい基盤を造っていくことが求められている状況です。
持続可能な開発目標として具体的に17の目標を掲げているSDGsや、企業が成長していくために取り組むべき考え方を示したESGなどが注目を集めています。また企業の価値をESGの視点から評価し投資していく、ESG投資も重視されていると言えるでしょう。
この記事では、SDGsとESG投資の関係性や課題、取り組み事例などを紹介します。
目次
SDGsとは
SDGs(エス・ディー・ジーズ)とは、Sustainable Development Goalsの略称で「持続可能な開発目標」と訳されます。17の目標が掲げられており、世界各国で取り組みが行われている状況です。
SDGsの概要と背景の説明
SDGsは、2015年9月の国連サミットで採択されました。2016年から2030年の15年間に、国連加盟国である193の国が達成すべき目標を掲げたものです。地球の環境や貧困、飢餓などの問題に対し、国際社会が協力して進めていく取り組みになります。
(出典:外務省「SDGsとは?」)
過去において世界各国では、経済発展に重きを置く方針をとっており、その結果大幅に経済が成長してきました。しかし一方で、環境を破壊したり格差が拡大したり多くの問題も発生しています。将来の世代のためにそれらの問題を改善し、持続可能な発展を目指すという考え方です。
SDGsには17の目標が掲げられており、各目標にはターゲットと呼ばれる細分化した項目が10個ほど存在しています。ターゲットは全部で169個です。ターゲットでは「経済、社会、環境的打撃や災害に対する脆弱性を軽減する」「貧困撲滅のための行動への投資拡大を支援する」 など、あいまいな表現もあります。そのため具体的な数値目標が設定された232個の指標が策定されました。
つまりSDGsは、「17の目標」「169のターゲット」「232の指標」という3段階の構造になっています。
ESG投資の基本概念
ESGとは、「Environment(環境)」「Social(社会)」「Governance(ガバナンス)」の3つの頭文字から造られた用語です。この概念は、2015年9月に国連サミットで採択されたSDGsがきっかけとなります。SDGsを達成するために、企業が取り組むべき考え方を示したものです。
ESG投資とは、企業の財務要素だけでなくESGへの取り組みで企業を評価し投資を行うことを示しています。
ESG(環境・社会・ガバナンス)それぞれの具体例
ESGの各要素に関して、具体的にどのような取り組みがあるのでしょうか。下表に具体例をまとめています。
ESGの要素 | 内容 |
環境(Environment) | 地球環境に配慮し、可能な限り資源を無駄にしない取り組みや持続可能な経営戦略 が評価されます。 具体的には生物多様性の保全、水資源の有効活用、再生エネルギーの活用、 二酸化炭素排出の低減、プラスチックごみを出さない取り組みなどです。 |
社会(Social) | 地域社会への貢献や人権問題への取り組みが評価されます。 具体的には、従業員の多様性を認める、男女の平等、労働環境の改善、 ハラスメントの防止などです。 |
ガバナンス(Governance) | 企業内の意思決定プロセスの透明性が評価されます。 具体的には、不正防止の仕組みづくり、積極的な情報開示、 社外取締役の設置などです。 |
投資のメリットと成長の背景
ESGに積極的な企業は、社会からの信用が拡大します。自社の利益だけを追求するのではなく、社会に貢献する姿勢を示すことができるためです。不祥事や不正による業績の悪化、倒産のリスクを低減させることも可能となります。社会の変化に左右されない基盤が構築されるため、安定して長期的に経営していくことが可能となるでしょう。そのためESG投資は、長期的な視点で行う投資に向いています。
長期的に投資を行いながら利益を獲得し、企業を通して社会に貢献できるところがESG投資のメリットと言えるでしょう。
またESG投資は世界的にも注目されておりESGの評価が高い企業は資金を調達しやすくなるため、今後成長していく可能性が高いと言えます。
SDGsとESG投資の関係性
SDGsは、持続可能な社会の実現のための目標を定めたものです。ESGは、企業が成長していくために取り組むべき考え方を示しています。企業がESGに取り組むことで「環境」「社会」「ガバナンス」が改善され、持続可能な社会の実現に近づけることが可能となるでしょう。
そのため企業においては、SDGsとESGは両方組み合わせて取り組んでいる場合がほとんどです。SDGsの重要度が高まってきている昨今においては、企業はESGに取り組むことが成長していくための重要な戦略になると言えます。
投資家はESG投資を行うことで、SDGsの実現に貢献できると言えるでしょう。
ESG投資を意識した経営のメリット
企業は長期的に成長していくためにも、ESGに取り組むことが大切と言えるでしょう。2006年に国連では「責任投資原則(PRI)」が掲げられ、ESGの視点で投資を行うことが持続可能な社会の実現に有効という考え方が示されています。現在この考え方は、世界中に浸透している状況です。
ESG評価と企業の財務パフォーマンス企業価値の関係
企業に対するESGの評価は、企業価値に影響すると言えるでしょう。環境問題への配慮や再生可能エネルギーの利用は、短期的には支出となる要素です。しかしこれらの社会貢献は企業の印象を高めるだけでなく、投資家からの資金を集めやすくなります。なぜなら近年ではESGに取り組む企業への投資が注目されており、長期的に利益をもたらすと考えられているからです。そのためESGへの取り組みは、財務パフォーマンスを向上させ企業価値を高める材料になると言えるでしょう。
またESGへの取り組みを通じて、新たな事業の創出や既存事業の発展なども考えられます。新しい取引先や顧客の開拓にもつながるため、企業規模の拡大を見込むことができるでしょう。
ESG評価と企業ブランドの一つである学生のランキングとの関係
企業ブランドの指標の一つが、学生の就職人気ランキングです。学生に人気のある企業は、企業ブランドが高く、優秀な人材を獲得しやすいと言えるでしょう。そのため学生の就職人気ランキングは、重要な指標です。
近年では学生が企業を評価するポイントとして、ESGへの取り組みがあります。二酸化炭素排出量の削減や再生可能エネルギーの導入などへの取り組みです。企業側としては企業ブランドを高めて優秀な人材を確保するためにも、ESGへの取り組みが重要と言えます。
課題
ESG投資に関しては評価するための定義が統一されていないなど、いくつかの課題が存在している状況です。ここではESG投資の課題について説明します。
日本企業のESG評価
日本企業の特徴としては、ESGの構成要素である「環境」「社会」に関しての取り組みは、多くの企業で行われています。しかし「ガバナンス」の取り組みは少ない傾向にあると言えるでしょう。
ガバナンスとは、管理・支配、統治などの意味があります。企業が健全な経営を行っていくために、自らを統制したり管理したりすることです。例えば、内部統制の強化、社外監査役や社外取締役の設置、社員への行動規範や倫理憲章の徹底などになります。
ガバナンスへの取り組みが弱いと、投資家からは将来的に成長を持続していける企業とは見られません。そのためガバナンスの強化が重要と言えるでしょう。
「サステナブルな活動」の定義
ESG投資の課題として、サステナブルな活動の定義が明確化されていない点が挙げられます。サステナブルは持続可能な取り組みという意味です。しかしどのような活動が「サステナブルな活動」なのか、国際的にも定義が統一されていない状態となっています。
EUでは「グリーン活動の分類」「サステナビリティ情報開示」などの提案や法令化が進められている状況です。
企業の非財務情報開示
昨今では企業価値を判断する場合、財務情報だけでなく非財務情報が重要となっています。非財務情報とは、経営戦略やESG、SDGsへの取り組みなどの数値や数量で表せる財務以外の情報のことです。国内では2023年度より、上場企業を対象に非財務情報の開示が義務づけられています。
しかし非財務情報の目的や定義が明確になっていない、開示情報としてまとめるのが困難などの課題が挙げられている状態です。
取り組み事例
ESGへの取り組みは、企業成長を持続していくためにも重要な要素となっています。その重要度は年々高まっていると言えるでしょう。ここではESGに取り組む企業の事例について紹介します。
花王
花王では3つの取り組みを行っています。
- 消費者目線でのESG経営
- 利害関係者との連携
- ガバナンスの強化
消費者目線でのESG経営では、2019年にESG戦略として「Kirei Lifestyle Plan」を発表し消費者のライフスタイルを重視した価値の提供を目指しています。利害関係者との連携では、他社と共同してフィルム容器のリサイクルや環境を配慮した支援などの実施です。ガバナンスの強化では、ESGガバナンス体制を構築しESG経営に関する議論や活動報告などを実施しています。
出典:花王「ESG経営」
トヨタ
トヨタ自動車では、すべての事業活動において地球や社会の持続可能な発展に貢献し、環境への負荷低減に取り組んでいます。また環境保全のために取り組んでいるのが、社会のあらゆる層と連携、協力する体制の構築です。
- 地球環境憲章の策定
- トヨタ環境チャレンジ2050への取り組み
- 渉外活動の基本的な考え方
- 気候変動政策における渉外活動の開示
- Science Based Targets initiativeから目標の認定・承認
- Sustainability Data Bookの発行
出典:トヨタ自動車「ESG(環境・社会・ガバナンス)に基づく取り組み」
野村総合研究所
野村総合研究所では、経営基盤としてESGのそれぞれの項目に取り組んでいます。環境への取り組みとしては、自然資本への配慮や再生可能エネルギーの利用などです。社会への取り組みとしては、利害関係者との良好な関係を構築し、労使や雇用、人権への配慮などを実施しています。ガバナンスへの取り組みとしては、長期視点でのリスクコントロールの実現です。
出典:野村総合研究所(NRI)「サステナビリティ」
SOMPOホールディングス
SOMPOホールディングスでは、健康、安全、安心できる商品やサービスを提供することで、持続可能な社会実現に貢献しています。またESGへの取り組みとしては、地域社会への配慮や人権、気候変動に配慮した保険や投融資を行うことです。
2006年に国連が発表した責任投資原則(PRI)に、日本の保険会社として初めて署名しました。また持続可能な保険原則(PSI)に参加するとともに、推進に向けた意思表明も実施しています。このように持続可能な社会への貢献や実現に向けて取り組みを進めている状況です。
出典:SOMPOホールディングス「SOMPOループの事業におけるESG配慮」
まとめ
今回は、SDGsとESG投資の関係性や課題、取り組み事例などを紹介しました。地球環境の変動、気候の変動、社会構造の変化、人権問題など、現代の社会では多くの問題を抱えています。企業に対しては、これらの問題に対処していくことが求められている状況です。
ESGの取り組みに力を入れている企業を評価する動きが今後進んでいくと考えられます。企業成長のためには、ESGは重要な要素です。経営戦略や成長戦略にESGへの取り組みを盛り込むことが、重要と言えるでしょう。
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